第55話 君の……
「ねぇ、秀くんはどっちの方が似合うと思うっ?」
帽子の時に聞かれたのと、似たような質問。
ただ、さっきくらい気軽に答えるのはちょっと難しかった。
唯華の右手にあるのは、セパレートのタンキニタイプ。
左手にあるのは、可愛い系のワンピースタイプ。
大人びた唯華にはタンキニタンプの方が似合いそうな気もするけど……実際に、俺が目にすることを想定すると。
「……こっちかな」
俺が指したのは、ワンピースタイプの方だった。
「ふーん? そうなんだー?」
と、唯華はどこか意味深に笑う。
「じゃ、こっち着てみよっと」
それからワンピースタイプだけラックに戻して、フィッティングルームへと向かった。
いや、そりゃ唯華が着たいのを着れば良いとは思うけど……それなら、なぜ俺に聞いたし……。
♥ ♥ ♥
二つの水着を掲げて見せた瞬間、秀くんの目が吸い寄せられるみたいに私の右手に向けられたのを私は見逃してはいなかった。
キュートよりセクシーの方が好きなら、そう言ってくれればいいのにねー?
ふふっ、素直じゃないんだからぁ。
♠ ♠ ♠
フィッティングルームの前で唯華を待つ間、なんだかやけにソワソワしてしまった。
これまで何度か露出が多い状態の唯華に遭遇したことはあるわけだけど、暗かったりすぐに目を逸らしたりでまともに見たことはない。
けど、今回は明るい場所でしっかり見ることになるだろう。
極力動揺を表に出さないよう、今のうちに深呼吸を……。
「じゃんっ!」
というタイミングで、カーテンが開けられて……俺は、一つやらかした。
「ねぇ、見て見てっ。似合って……る……?」
この店のフィッティングルームは、少し段差が高い。
それが俺たちの身長差を逆転させることに気付いていなかった俺は、つい癖でいつも唯華の顔がある辺りに目を向けていた。
すると、そこにあったのは……谷間。
前にも思ったけど、唯華って着痩せするタイプだよなー……なんて、思わず凝視してしまったのである。
「ふふっ……秀くんのエッチぃ」
見なくても、唯華がイタズラっぽい笑みを浮かべていることはわかった。
「っ、ごめんっ!?」
我に返った俺は、謝りながら慌てて後ろに飛び退る。
「別に、謝るようなことじゃないけどね?」
「いや、流石にその……不躾だった……」
「それより、水着の感想はー?」
猛省しながら、改めて唯華の姿へと目を向けた。
「うん……似合ってると思う」
唯華の色白な肌を彩るモノトーンのシンプルなデザインが、本当によく似合っていた。
露出も思ったよりは控えめで、俺の心臓にも優しい仕様だ……変なとこさえ見なければ。
「そ? なら、これにしよっかなー?」
「せっかくだし、もう一つのも試してみればいいんじゃないか?」
「そうだね、そうするー」
♥ ♥ ♥
「それじゃ着替えるねー」
意識してできる限り何気ない口調で言って、カーテンを閉めてから。
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ恥ずかしかっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
と、私は自分の顔を両手で覆って悶絶した。
そりゃ、見てって言ったのは確かに私だけど……!
あんなにジッと『一部』を見るんだもん……!
秀くんの……エッチ。
でも……エッチな秀くんだって、嫌いじゃないけどね?
ちゃんと『女の子』として見てくれてるのがわかる瞬間は、むしろかなり好きっ!







