第53話 君のメッセージ
「ねぇ秀くん。今日のお出掛け先、私が決めても良い?」
「もちろん」
唯華の申し出に、俺は即座に頷く。
意識的に出掛けるようにしているとはいっても、言うて行き先の候補も限られる。
リクエストがあるのは、むしろありがたかった。
流石に、この炎天下の中ではしゃぎ回れる程に俺たちも子供のハートを保っちゃいないしな……
「それで、どこに行くんだ?」
「うん、あのね……」
尋ねてみると──
♠ ♠ ♠
「へー、ゲームセンターって中こうなってるんだー?」
ということらしかった。
「唯華は、入るの初めて?」
「うん、そうなの。だから前からちょっと気になってて」
俺たちは昔子供たちだけで入るのを親から禁止されてたし、家族で来たこともなかったんだろう。
まぁ、それは俺も似たようなもんだったけど。
「って言っても、秀くんも初めてでしょ?」
果たして、唯華も察しているらしい。
ただ……。
「や、何回か来たことあるよ」
「へぇ、一人で?」
答えると、唯華は少し意外そうな顔となる。
「いや、衛太と」
「へぇっ」
そして、俺の答えに一段と意外そうな表情に。
「二人で遊んだりするんだ?」
「そりゃ、たまにはな」
「ふふっ、そっかそっか」
確かに以前なら考えられなかったことなんだけど、今の俺は唯華抜きでも『友達』と普通に遊びに行ったりもするのだ。
それを知って、唯華は自分のことのように嬉しそうに笑ってくれる。
「それじゃセンパイ、案内よろしくっ」
次いで、茶化したと調子で敬礼のポーズ。
「言っても、そんな詳しいわけでもないけどな……何かやりたいのとかある?」
「あっ、あれやりたい! ゾンビ撃つやつ!」
「なかなか渋いとこ突いてくるな……」
「マンガとかでよく出てくるでしょ? 一回やってみたくてっ」
「いいよ、確か向こうにあったと思うから」
──それから俺たちは、めちゃくちゃゾンビを撃ち。
「ちょっ、無理無理これは無理! サビに入った途端めっちゃ速く流れてきて何がなんだかわかんない!」
「だから最初はイージーモードにした方が良いって言ったのに、いきなりハード選ぶから……」
音ゲーに翻弄され。
「あっ、キャンコレのアーケード版! こんなの出てたんだー!」
「へぇ、こっちは3Dモデルなんだな。めっちゃ良く出来てる」
唯華がプレイしているソシャゲ、『キャンディコレクション』──キャンディを擬人化した美少女たちが、なぜか攻めてくる宇宙人と戦う設定である。一度砕ける(死ぬ)と完全にキャラがロストするという、なかなかハードな仕様だ──アーケード版でキャラのカードをゲットしたり。
「んんっ、全然掴めない……! これ、アーム弱すぎじゃないっ?」
「タグのとこに引っ掛けるのがコツらしいよ」
衛太から聞いたアドバイスを伝えて、無事クレーンゲームで勝利を収め。
「いけっ、乱反射シュート!」
「甘い、この程度なら見切れるさ!」
エアホッケーで、白熱した勝負を繰り広げ。
「……うっわ、もうこんな時間!?」
ガッツリ遊んで、気が付けばいつもなら夕飯の用意を始めている時間だった。
「そろそろ帰るか」
「あっ、待って待って! 最後にあれ、撮ろっ!」
と、唯華が指すのはプリコーナーだ。。
「いいけど、俺も初めてだから勝手がわからないかも」
「ふふっ、衛太と撮ったりはしないんだ?」
「流石にな……」
「じゃあ、私たち二人共の初プリだねっ。試行錯誤も楽しみのうちだよー」
なんて言いながら、撮影機のところへ。
「へぇ、まずはここで背景とか選ぶんだな」
「わーっ、いっぱい背景あって迷っちゃうねー」
「おっ、キャンコレのもある」
「ホントだっ! ちょうどコラボ中? ねねっ、これにしていい?」
「もちろん」
「じゃあこれで~……あっ、撮影ブースに移動してくださいってさ」
画面の指示に従って、撮影ブースのカーテンをくぐった。
「ほら秀くん、もっとこっち寄らないとフレームにちゃんと入んないよ?」
「あ、おぅ……」
唯華に腕を引き寄せられて密着度が上がり、狭い空間に二人だけという状況もあって少しドギマギしてしまう。
「せっかくだし、一緒になんかポーズとろっ。何がいいかなぁ?」
一方、唯華の方は純粋にこの状況を楽しんでるみたいだ。
そうだよな……。
「じゃあ、フレームのキャラと同じポーズってのは?」
「あっ、いいねそれいただき! じゃあ、私はあんず飴ちゃんのポーズっ」
「俺は左の白い子の……なんでこの子、喉押さええてんの?」
「のど飴ちゃんは、いつも喉のイガイガに悩まされてるんだよ」
「のど飴なのに……!?」
「自分で自分は食べられないからね。人の喉は癒せるのに自分のは癒せない、悲しき運命を背負ってるんだね」
「思ったよりちゃんとした理由あった……」
「よし、それじゃいくよー?」
「あいよー」
俺も、変なこと考えてないで楽しまないとだよな!
♥ ♥ ♥
いやぁ、ねぇ?
なんというかこう、この狭いとこで二人きりっていうのはちょっとドキドキしちゃうよねぇ……!
というのを、顔を出さないようにしながらパシャリと撮影。
また画面の指示に従って、今度はラクガキブースに移動する。
「へー、ここで盛りもできるんだ? せっかくだし、盛り盛りにしちゃおっ」
「ネタ系? ガチ系?」
「もちろん、ガチ! あとはメッセージも入れたいなー」
何を書こうか、あれこれ考えてみた。
『ラブラブ~♡』とか書いちゃうっ?
それはちょっと攻めすぎかなー?
私たちの今の関係なら、『ズッ友』とか………………うん、なんか変なフラグになりそうだからやめとこう……。
……そうだ。
今の私たちの関係性に相応しくて、それが将来変わったとしてもきっと変わらないだろうことは……。
「!」
私の書いたメッセージを見て、秀くんはほんの僅かに目を見開く。
けど、すぐに微笑んで頷いてくれた。
♠ ♠ ♠
「あはーっ、めっちゃ目ぇおっきー!」
「俺までなんか可愛い感じになってる……」
「ふふっ、秀くんはいつも可愛いよ?」
「はいはい、ありがとう」
「ホントなのになー?」
なんて笑い合いながら、二人で分け合う。
キャンコレのキャラとお揃いのポーズで、盛り盛りな俺たちが写った……『ずっと一緒!』という、唯華のメッセージが書かれたプリを。







