第46話 出来ちゃったみたい
「秀くん……私、出来ちゃったみたい」
「えっ……?」
神妙な表情で言う唯華に、一瞬思考が追いつかずにフリーズしてしまった。
「マジで!? でかした唯華!」
けれど、すぐに胸中に喜びが広がっていく。
今すぐ唯華を抱きしめて喜びを表現したいくらいの気持ちだ。
ただ、まずは詳細を聞いてから。
でもそうか、俺たちもついに……!
「で、この局面どう切り抜ける?」
「まず、ワイバーン部隊を全部こっち方向に突っ込むでしょ?」
「え? そっちの筋は何もなくね?」
「や、結局終盤で出てくる援軍でいっつも詰むわけじゃない? でもスタートから全力でこっち方面に進んどけばギリで対応できる」
「それはまぁそうかもだけど、そしたら逆方面の敵部隊の厚さに対応できなくないか?」
「そこがミソってやつですよ。ちょっとずつ敵を釣りつつ全力で後退していったら、計算上はギリ追いつかれる前に……」
「あぁなるほど、ここの一本道に誘い込んで……この順番で交代しながら各個撃破すると……ギリで全員倒せる計算か!」
「そそそ、後はボスを囲んでフルボッコ」
「なるほど、これだ!」
ついに、三日間詰まってたこのステージをクリア出来る時が来た!
最高難易度で挑んでるこの戦略シミュレーションゲーム、一手間違えるとゲームオーバーな詰将棋状態なんだよな……。
「最初に分散して人数を減らすからこそ、この局面に到れるわけか」
「そういうこと」
「全部隊投入でギリいけそうな雰囲気なのが逆に罠だったな……」
「開発者の嫌らしさを感じるよね」
と、俺たちは微苦笑を浮かべ合う。
「やー、でも解けた時のこのアハ体験は病みつきになるよねー!」
「だな。今回は唯華に譲ることになったけど、次は俺の方が早くクリアの手を見つけてやるから」
「どうかなー? 秀くん、正攻法に囚われすぎるところがあるからなー?」
「そう言う唯華はトリッキーな手ばっか考えて結局足を掬われるパターンが多いくせに」
「ふふっ、つまり私たち二人揃えば余裕ってことだよね?」
「三日も詰まってた現状、流石に余裕とまでは言えないけど……確実に、全クリ出来るさ」
「だよねっ」
それから、今度は不敵な笑みを浮かべ合った。
「やー、にしても頭使ったーっ」
「んじゃ、糖分補給といくか」
「さんせーさんせーっ」
二人同時に立ち上がって、キッチンへと向かう。
特に示し合わせることもなく、俺は冷蔵庫に向かって唯華はコンロの前に。
「唯華、一番下ので大丈夫だよな?」
「おけー」
こちらを見ることもなく返ってきた回答を受けて、冷蔵庫の一番下の段に冷やしてあるケーキの箱を取り出し皿を取りに向かった。
「秀くーん」
「あいよー」
その途中、紅茶葉の入った容器を取って唯華に手渡す。
「センキュー」
「イチゴの方でいいか?」
「もっちろん」
というわけで唯華の皿にはイチゴのショートケーキ、俺の皿にはチョコレートケーキを載せていく。
基本的に味の好みも似ている俺たちだけど、こういうとこはスッパリ分かれてるんで揉めなくて助かる。
「んじゃ、今のうちに洗濯物取り込んどくな」
「おねがーい」
唯華の方はまだ時間がかかるだろうから、その間に家事を済ませておくことにする。
この辺りも特に決めてあるわけじゃないんだけど、毎度なんとなく適当に役割を分担する感じだ。
◆ ◆ ◆
洗濯物を取り入れて戻ると、ちょうど紅茶の準備も終わったところだった。
『いただきまーす』
二人並んで手を合わせ、まずはケーキを一口。
「んーっ、美味しいーっ」
「疲れた脳に染み渡るな……ん、紅茶も美味い。唯華が淹れると俺がやるのと全然違う味になる気がするんだけど、どうやってんの?」
「んー、ちょっと一手間かける的な? 今度教えてあげるね」
「あぁ、頼むよ。毎度淹れてもらうのも申し訳ないし」
「ふふっ、そんなのは別に気にするようなことじゃないけど」
なんて談笑しながら食べていると、ケーキがなくなるのなんてあっという間だ。
「よし、そんじゃさっきの作戦でホントにいけるかの答え合わせしよっ」
「おっしゃ、やるか」
頷き合った後、俺たちはやる気満々の表情でゲームを再開させた。
「あれ? そこに配置でいいんの? 一マスでも進んだ方がよくない?」
「や、地形効果的にここで受けるのがベストだと思う」
「なるほど確かに……うっわ、ここでクリティカル出ちゃう!? 完全にやっつけ負けのパターン入っちゃったじゃん……!」
「乱数を信じろ……! 相手の命中率がこれなら一発くらいは……よっしゃ外れた!」
そんな風にワイワイ言いながら、ゲームを進めていき……。
「おいおい、ボスがまだ変身残してるとか聞いてないんだが……!」
「けど、残存戦力でギリ削りきれる……はず!」
ゲームの画面に釘付けになりながら、俺たちもだいぶ白熱してきていた。
そして。
『っしゃ!』
ボスを撃破したところで、歓喜の声が重なる。
「流石だな、やっぱ唯華の作戦通りだ」
「秀くんが状況に合わせて適宜修正してくれたからだよ」
と、笑顔を交わし合った……ところで気付く。
「……?」
頬を引き攣らせてしまった俺を見て、疑問符を浮かべる唯華の顔が……近いな!?
画面を指差してあれやこれやと言っているうちに、いつの間にか俺の後ろから唯華が覆いかぶさるような恰好になっていた。
「どうかした?」
吐息さえも感じられそうな距離感で、けれど唯華は特に何も思っていない様子。
そ、そうだよな……俺たちは、あくまで親友同士。
それは、婚姻届を提出して正式な夫婦になっても変わらない。
目の前に、吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳があるとしても……変な気を起こしたりするなよ、俺!
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
私は、どうにかこうにか疑問顔を形作りながら。
いーや、顔ちっっっっっっっっっっっっっっっっか!?
と、内心では大混乱だった。
い、いつの間にこんなことに……!?
あーもう私ったら、ゲームに夢中になってたからって大胆になりすぎぃ!
顔がニヤけちゃわないよう、めっちゃお腹に力入れてるんだけど……!
だって間近で見る秀くんは、やっぱり凄く格好良くて……うわっ、肌きめ細かっ! もう女の子じゃん! あっ、女の子だっけ? 女の子なら、いいよね………………いや良くない!
危うくほっぺにキスしそうになっちゃったよ……!
いけない、いけない……私が秀くんにそういう感情を持っていることを、今はまだ知られるわけにはいかない。
だって秀くんは、あくまで『親友』として私との結婚を受け入れてくれたんだから。
……でも、秀くんから手を出してくれる分には全然オッケーなんだけど。
この状況で……ちょっとくらい、『変な気』を起こしてくれてもいいのにね?
ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
書籍版、本日4/1(金)に角川スニーカー文庫より発売です。
WEB版共々、何卒よろしくお願い致します。
特設サイト:https://sneakerbunko.jp/series/danshidato/
試し読み:https://viewer-trial.bookwalker.jp/03/13/viewer.html?cid=42dbd567-3eef-41ee-bfc6-c75f83d304b7&cty=0&adpcnt=GDPL5fFh
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