SS22 神絵師の孫の話
「あの……お婆様、本日はどのようなご用件なのでしょうか……?」
その日、突如我が家に来訪してきたお婆様に対して私は緊張を胸に対応していた。
秀くんがいないタイミングっていうのも、前回の状況に似てるから尚更……いやいや、あれは結局誤解だったんだし……!
でも、そういう意味じゃ今度は本当に何も心当たりがなくてこれはこれで怖い……!
「そうだねぇ」
一方、リラックスした様子でリビングのソファに腰掛けるお婆様。
「まずは、これを渡しておこうか」
スッと懐から封筒を取り出し、私の前に置いた。
なんか妙に分厚い気がしますけど、何ですかこれ……? という視線を向けてみたけど、お祖母様は澄まし顔で私がさっきお出しした紅茶を口にするのみ。
開けてみろ、ってことだよね……?
お婆様のことだから、変なイタズラとかではないと思うけど……だからこそ中の想像が付かず、恐る恐る開けてみると。
「……うわっ、現金?」
一万円札の束が顔を覗かせて、思わず声を上げてしまった。
これ、結構あるよね……?
えっ、何のお金……?
「えーと……」
そこでふと、一葉ちゃんで前に似たようなことがあったな……と思い出して。
「もしやこれは、『課金』というやつですか……?」
とりあえず尋ねてみる。
一葉ちゃん、なんか「オタクはすぐ課金したがる生き物なのです」って言ってたし……いや、お婆様がオタクなのかもわからないけど……。
「なんであたしがアンタに課金しないといけないんだい」
「それはまぁそうなんですけど……」
というか、未だに私は一葉ちゃんから課金? されそうになった意味もよくわかってない。
とはいえ、だとすればホントに何のお金なんだろう……?
「それでは、えーと……お小遣い的なもの、とか……?」
よく考えたら普通はこっちの方が先に浮かびそうなものなんだけど、お婆様からお小遣いを貰った経験もなかったのと金額が大きすぎたので発想が遅れた。
「なんであたしがアンタに小遣いをやらないといけないんだい」
「あ、はい……」
だけど、これも違ったみたい。
これについては一応、祖母と孫なんだから理由自体は存在しなくもないと思うんだけど……。
「それは、アンタの正当な報酬だよ」
「はぁ……」
短く説明してくれたけど、その上でやっぱり意味がわからなかった。
報酬って、何の……?
「振り込みでも良かったんだけど……これも渡さないといけないしね」
未だ状況が全くわからない私の前に、お婆様は次に一冊の本……漫画の単行本? を置いた。
ますます意味がわからな……んんっ!?
なんかこの絵柄とキャラ、見覚えがあるっていうか……!
「これ、前にお婆様がSNSに上げてた私たちのコミカライズのやつですよね!?」
『私たちのコミカライズ』なんて言葉を、人生でまた口にする機会が訪れるとは思わなかったよね……!
「WEBに上げている分もそれなりの量になってきたところで、編集者さんからお声掛けいただいてねぇ。せっかくだから、書籍化いただくことにしたのさ」
「私たち、書籍化されたんですか……!?」
『私たち書籍化されたんですか』なんて台詞を人生で一度でも口にする日が来るとは思わなかったよね……!
「原作に対しての連絡が遅れた件については謝罪するよ」
「確実にわざとですよね!? ていうか、私のこと『原作』って言うのやめていただけます!?」
さっきのお金も、原作者としての取り分ってこと……!?
対応が本格過ぎる……ていうか、んんっ!?
「うっわちょっと待ってくださいこれ、なんか『漫画:神絵師 原作:神絵師の孫』って書いてあるんですけど!?」
「原作なんだから、当然クレジットされているに決まっているだろう?」
「それもどうかと思うんですけど、なんでよりにもよってこの名前で!?」
「事実をそのまま書いただけだよ」
「確かに事実ではあるんですけども……!」
「なんだい、書籍化されたのが不満なのかい?」
「そこに不満を表明しているわけではないというか、書籍化の事実についてはまだ飲み込めてないんで不満かどうかもわからないんですけど……」
改めて、手元の本に目を落とす。
お婆様、やっぱ無駄に絵が上手いよね……。
私たちの特徴、かなりしっかり捉えてるし……表紙の秀くん、かっこよ……。
「……中を読んでみても?」
「無論、構わないよ。それは原作用にと持ってきた見本誌だし、何ならあと十冊は置いていくさ」
「そんなにはいりませんけど……」
お婆様が持ってきた大きめの紙袋、もしかして全部『これ』なの……?
なんて思いながらも、パラパラッと序盤の方を流し読んでみる。
くっ……! なんか悔しいけど、やっぱり中の秀くんも格好良いな……!
……あっ、昔のお話もあるんだ?
小さい頃の秀くん可愛いーっ!
そうそう、こんなだったよね……!
ふむふむ、今度はまた今のお話に戻って……。
「うひいっ、秀くんのエッチな姿!?」
「原作の要望ということで、少しサービスシーンは多めにしてあるよ」
「勝手に私の要望を捏造して通さないでほしいんですけど……!?」
「なんだい、いらなかったかい?」
「それは……! いります、けど……!」
「ちなみに、その二十ページくらい先には……」
「ちょっと、ネタバレはやめてください!」
「アンタの存在そのものが元ネタなんだけどねぇ」
結局私は、なんだかんだでまんまと引き込まれてしまったのだった……。
本作『男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について』、書籍化していただけることとなりました。
※書籍化に当たり、再度改題致しました。
スニーカー文庫より、4/1(金)に発売です。
https://sneakerbunko.jp/product/322112000108.html
これも、いつも応援いただいております皆様のおかげでございます。
改めまして、誠にありがとうございます。
諸々、公式より情報が出次第またお知らせして参ります。
結構加筆・修整を加えており、WEB版ともまた少し違った読み口になっていると思いますので、書籍版もどうぞよろしくお願い致します。
※なお、今回のSSの内容と書籍版の内容に関係はございません。







