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SS19 告白

 体育の授業中。

 男子はバスケ、私達女子はバレーでどっちも体育館を使っていた。


 チームが休憩ターンに入った私は、何とは無しに男子の方に目を向ける。


「よっ、っと」


 秀くんの手を離れたバスケットボールが、綺麗な放物線を描いた後にゴールリングに吸い込まれていく。


「ナイッシュー」


「おぅ、ナイスパス」


 衛太と秀くんが、笑顔で拳を合わせる中……周囲の女子の一部から、黄色い声が上がっていた。


「ねぇねぇ、九条くんって良い感じじゃない?」


「うん、最近表情が柔らかくなったよね」


「てか、笑顔が意外と可愛いなー」


「普段とのギャップよね」


 わかるー! それな!!


 ……と、密かに深く頷いちゃったのはともかくとして。


 そう……秀くんが、最近モテている。


 元々、成績優秀でスポーツも得意だし顔も家柄も良しっていう超優良物件。

 前は人を寄せ付けない雰囲気で、告白どころじゃなかったみたいだけど……今の秀くんなら、モテるのも納得だよね。


 旦那様がモテるっていうのは、なんだか鼻が高い想いもあるんだけど……ちょーっとモヤっとしちゃうのも、事実かも。



   ◆   ◆   ◆



 そんなある日の、放課後。


 放課後まで女子会的におしゃべりしていたせいで少し遅くなっちゃって、私は人気の少なくなった校舎をちょっと足早に歩いていた。

 そんなところに。


「九条さぁ、あーしと付き合わない? 九条のこと、好きよ?」


「っ……」


 そんな声が聞こえてきて、思わず足を止めてしまう。


 夕日が差し込む階段の踊り場。


 そっと覗いてみると、秀くんと……えーと、隣のクラスの夏目(なつめ)さん? が向き合ってるのが確認出来た。

 確か、秀くんとは委員会が一緒だって聞いたことがある。


 スラッとした長身美人で、大きく開いた胸元から覗く深い谷間は……「エッチです!」私の中の一葉ちゃんが叫んだ。


 誤解のしようもなく、『告白』の場面なのは間違いない。

 秀くんはどう答えるのか……いけないことだってわかってはいても、思わず聞き耳を立ててしまう。


「ありがとう」


 秀くんの第一声がそれで、ヒュッと喉元の辺りが苦しくなった。


「君のその気持ち、嬉しく思う」


 前に「唯華だけ」って言ってくれたこと、信じてる……もちろん信じてるけど、万一のことを考えると嫌な汗が背中を伝っていく。


「だけど、ごめん」


 でも、秀くんは真摯な調子でそう続けて。


「将来を誓い合った人がいるんだ」


 少しだけ困ったように、笑った。


「あー、許嫁ってやつ?」


「まぁ、そんな感じ……かな?」


「今時あんだね、そんなの」


 夏目さんは、たった今告白を断られたばっかりだって言うのに少しも動揺した様子が見られない。


「じゃあ、今その子と付き合ってるわけ?」


「いや、そういうわけではないんだけど……」


「オッケーオッケー、じゃあこれでどうよ?」


 それどころか、なぜか笑顔で親指を立てた。


「結婚を前提にとか、重いこと言うわけないし? 今だけの関係ってやつでいいから。結婚する前にちょっと遊ぶくらい、やっとかないとじゃん?」


 ニンマリと笑って、秀くんの腕に抱きついて……あぁっ、駄目駄目!

 秀くん、意外と女の子との接触に弱いとこあるんだから……!


 普段割とそこを利用している私が言えたことでもないけど、他の女の子にドギマギする秀くんのを見るのは……。


「ごめん」


 ……あれっ?


 だけど、秀くんは困った笑みを浮かべただけでスッと優しく腕を引き抜いた。

 その顔には、少しの動揺も見られない。


「そっかー」


 夏目さんの声に、初めて残念そうな色が混じる。


「その子のこと、好きなんだ?」


 っ!?


 さっきとは別の意味で、心臓が大きく跳ねた。


 秀くんは、これになんて答えるのか……と固唾を飲んで見守る中。


「そうだね……とても、大切に思ってる」


 小さく、けれどハッキリと頷いて返した。


 きっと秀くんは『そういう意味』で言ってないと思うし、何度も直接伝えてくれた言葉だけれど……。

 私がいないところでもハッキリそう言ってくれた事実が、じんわり胸に暖かく広がっていく。


「りょーかいりょーかい、ほんじゃこの話は無しで! ごめんねー、気ぃ使わせちゃって」


「いやそんな、こっちこそ……」


「おっしゃー、次は久世にでもアタックしてみっかー! 彼氏いない期間って、なんか落ち着かなくてさー!」


 恋多き人っていうの?

 私とは違う価値観だけど、清々しくってなんだか感心しちゃう。


 別に、浮気とかしようってわけじゃないみたいだしね。


 それに……今ここでそれを口にしたのは、秀くんへの気遣いだと思うから。

 実際、秀くんの表情も少し和らいで見えた。


「んじゃ、顔合わせたら挨拶くらいはしてねー」


「あぁ、もちろん」


 あっさり踵を返して、背中越しに手を振りながら夏目さんは階段を駆け下りていった。


「……ふぅ」


 それを見送ってから、秀くんは深く溜め息を吐く。


「慣れねぇな、こういうのは」


 それから、少しだけ苦笑した。


 同じ乙女として……夏目さんの気持ちを思うと、胸が痛くなるところはある。

 軽い口調だったけど、彼女の目には秀くんに対する確かな好意が感じられたから。


 それでも。

 秀くんが、少しも揺れる様子を見せなかったことを……嬉しく思っちゃってる自分がいるのも、事実ではあるよね。



   ◆   ◆   ◆



 その日の夜、私はとある『実験』をしてみることにした。


「秀くん、何見てるのっ?」


「うぉっ……!?」


 リビングでテレビを観ていた秀くんの隣に座りながら、腕に抱きついてみる。


「いや、別に、動物番組だけど……」


 そう言う秀くんの顔は少しだけど赤くなっていて、チラッと私が抱きつく腕の方に視線が向けられた。


 うーん、やっぱりちょっとは動揺してるよね……?

 夏目さんの方が胸も大きかったし、露出も派手だったのに……だとすれば、もしかして。


 動揺しちゃうのは……。


 相手が私だから、とか?


「ふふっ」


「ん……? 何か良いことでもあったか?」


「そうだねー」


「へー、何があったんだ?」


「なーいしょっ」

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