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SS12 提案と結末について

 ダイエットのためにトライアスロンをガチるっていう、硬い意思を見せる秀くん……だけどその理由が「いざって時に、身体が重くて唯華を護れないなんて事態になったら嫌だから」だなんて言われたら、頭ごなしに否定は出来なくて。


 だけど、このまま続けたらたぶん身体を壊しちゃうだろうから。


「次からは、私も最後までついていくから! 私の耐えられる運動量に留めるように!」


 私は、そう提案することにした。


「えっ……?」


 秀くんは、ちょっと意外そうな顔。


「私を護るためなのに、私が身体を壊したら本末転倒……だよね?」


「む……」


 そう続けると、どこか難しそうな表情になって。


「……わかったよ」


 それから降参を示すように、微苦笑と共に両手を挙げた。


「じゃあ、オリンピック・ディスタンスくらいでいいか?」


「まずトライアスロンを前提にするのやめない……?」


 ちなみにオリンピック・ディスタンスは、確か……スイム1.5km、バイク40km、ラン10km、の合計51.5kmだったと思う。


 ダイエット目的で日常的にやる運動量じゃないんだよねぇ……。



   ◆   ◆   ◆



 その後、程々の距離のジョギングだけに留めるようどうにか説得して……しばらく。


「うしっ……! ベスト体重まで戻ったぞ……!」


 私は、脱衣所の体重計の上でガッツポーズする秀くんの姿を目撃したのだった。


「おめでとー」


「おっ、いたのか……サンキュ」


 パチパチパチと拍手を送ると、そこで初めて私の存在に気付いたみたい。


「割と戻るの早かったね?」


「まぁ元々、そこまでオーバーしてたわけでもなかったからな」


「だとすれば、やっぱり最初みたいに焦る程のことじゃなかったよね……」


「確かに、焦りが先行しすぎてたわ……説得してくれてありがとな、助かったよ」


「ふふっ、なら良かった」


 なんて、和やかに会話を交わしながら。


「私も、久々に計ってみようかなー」


 ふと、そう思い付く。

 そういえば最近、体重計は秀くん専用アイテムみたいになってなーって。


「あっ、秀くんは見ちゃ駄目だからねっ?」


「はいはい、わかってるよ」


 手でバッテンを作ると、秀くんは微苦笑と共に場所を譲ってくれた。


 それから、背を向けて脱衣所を出ていく。


「さてさて、どのくらい減ってるかなぁ?」


 私は、ウキウキした気分で体重計の上へ。


 私も、秀くんに付き合って沢山走ったからねぇ……凄くスリムになって……。


「………………は?」



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「……そういえば唯華、脱衣所から出てきてなくないか?」


 ダイエットの成功に満足してリビングで寛いでいた俺は、しばらくしてふとその事実に思い至った。


 俺が気付かなかっただけで、とっくに出てるとかだったらいいけど……まさか、倒れてたりしないよな?


「唯華? 何かあったか?」


 問いかけながら、脱衣所の中を伺うと……。


「ジョギングしてるから間食オッケーだよねーじゃなかったよここ最近の私の馬鹿計算してみると明らかに消費より摂取してるカロリーの方が多いじゃんジョギングを過信しすぎてたいやというか生クリームのカロリー(ぢから)を侮ってた何なのこのカロリー爆弾あれ待って待って私今朝何回おかわりしたっけ運動後だから美味しーとか言ってお茶碗一杯分のカロリーって……」


 体重計に乗ったままの唯華は、俺の声が届いていない様子でスマホを操作しながらブツブツと何かを呟いていた。


 どうやら、『何か』はあったみたいだな……。

 うん、いや、まぁ、なんとなく状況は察せた気がするけど……。


「……秀くん」


 壊れかけのロボットのように、唯華はギギギとゆっくりこちらに顔を向ける。

 どうやら、俺の存在には気付いていたらしい。


「私、明日からトライアスロンやる!」


「身体壊すから、やめときな……?」


 先日とは全く逆の構図である。


「ていうか全然太ったようには見えないし、仮に太ってても唯華は可愛……」


「今そういうのいいから。数字が全てだから」


「あ、はい……」


 フォローしようとしたけど、瞳孔の開ききった目で遮られては頷くしかなかった。


 ま、まぁ、女の子にとっては深刻な問題だよな、うん……。



   ◆   ◆   ◆



 その後、これまでのジョギングに加えて俺がやってる筋トレを唯華も取り入れるって線でどうにか合意。


 しばらくの間、唯華は若干ピリついた空気を纏ってたんだけど。


「んーっ、これ美味しーねっ」


 『数字』が戻ったらしく、以前と同じく笑顔でプリンを頬張る唯華が帰ってきてくれたのだった。


「……大丈夫、今日の消費カロリー的にこのラインはセーフ。このラインはセーフセーフセーフ……」


 たまに目のハイライトが消えて何かをブツブツ呟いているような気もするけど、帰ってきてくれたんだと信じたい。

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