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SS10 あなたはあの人たちよりも

 とある夜、ソファで秀くんと並んでクイズ番組を見ていた時のこと。


「ねぇ、秀くんはこの中だと誰が一番可愛いと思う?」


 若手の女優さんたちで構成された回答者チームを指しながら、なんとなく尋ねてみる。


 そういえば秀くんの好みとか聞いたことないなーって思っての質問で、別に深い意味はなかった。


「んー……右から二番目の子?」


 秀くんは眉根を寄せて、あんまり興味なさそうな調子ながらも答えてくれた。


 少し茶味がかったセミロングの髪の子で、メンバーの中だと一番大人びてると思う。

 ちょっと、私と似てるかも……? なんて考えちゃうのは、自惚れだよね。


 あっ……そうだ。


「私と……」


 私と、どっちが可愛い? なんて質問して、ちょっと秀くんを困らせちゃおうと思ったんだけど。


 いや、流石にそれはちょいウザを超えて純粋にウザいな……と思い直して言葉を飲み込んだ。

 の、だけど。


「まぁ、唯華の方が可愛いけどな」


 ……んんっ!?


「あっ、えっと……今、なんて……?」


 飲み込んだはずの質問への回答が飛んできたような気がして、思わず尋ね返してしまう。


「ん? 唯華の方が可愛い、って」


 んんっ……! やっぱり聞き間違いじゃなかった……!


 ていうか秀くん、真顔で何言ってんの……!?


「い、いやぁ、その、流石にそれはないというか、私としてもそれを肯定するほど自惚れてはいないというか……」


「……?」


 いやいやいや……! なんで話が通じてないっぽい感じなの……!?


「あぁ、そうか」


 あっ、でもやっと納得してくれたみたい?


「確かに唯華は、どっちかっつーと可愛い系っていうよりは綺麗系だもんな」


 んんっ……! そういう話じゃないんだよねぇ……!


「でも、可愛いところも沢山あるからさ。確かに美人系の顔立ちではあるけど笑うと凄く可愛い印象になるし、未だにイタズラっ子みたいなとこがあるのなんかも可愛いと思うし、美味しいものを食べてる時の表情とか凄い可愛いし、無意識に髪をいじる仕草なんかもチャーミングだし」


 止まんないね!?


「そうそう、こないだ猫を見つけて追いかけてった時なんかも……」


「ちょちょちょっ、一旦止めて……!?」


 これ以上は私の心臓が保たなそうなので、両手を突き出しストップをかける。


「あの……それ、恥ずかしくないの……?」


 それから、ついつい尋ねてしまった。


 私のからかいですぐに赤くなっちゃうピュアボーイだと思ってたのに……こんな涼しい顔で情熱的に口説いてくるだなんて、とんだプレイボーイじゃない……!


「? 恥ずかしいって、何が?」


 だけど、秀くんは何のことかわかってない表情で。


「や……可愛いとか綺麗とか、面と向かって言うの……」


「……?」


 えっ、ここまで言っても伝わんないの……!?


「例えばだけど……『唯華の顔には目が二つと鼻と口が一つずつ付いている』。これを述べるのに、何か恥ずかしいこととかある?」


「え……? いや、それは別にないと思うけど……」


 ていうか、急に何の話……?


「それと同じで、事実を述べてるだけなんだから恥ずかしいことなんてないと思うんだけど」


「っ……!」


 だけどじゃないんだけど……!?


「ん? どうした、急にそっぽ向いて」


 それはね、真っ赤になった顔を見られないようにするためだよ……!


「うん、まぁ、ちょっと首のストレッチをね……」


「このタイミングで……?」


 苦しい言い訳だけど、そんなことよりも……さっきの言葉が意味するところを、改めて考えると。


 秀くんにとってさっきのは口説いてるわけでも、もしかすると褒めてるって意識すらなくて……本当に、ただ事実を述べてるだけで。

 つまりは普段から、そんな風に私を見てるってことだとすれば。


 これはちょっと……下手に甘い言葉を囁かれるより効いちゃうってぇ……!



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 とある休日の昼、唯華とバラエティ番組を見ていた時のこと。


「秀くんってさー、アイドルに興味とかないのー?」


 画面にイケメンアイドルがアップで映し出されたタイミングで、唯華が何気ない調子で尋ねてきた。


「んー? よく見るグループならそれなりにわかるって程度で、まぁ普通くらいじゃないか?」


 ちょっと考えて、そう答える。


「や、じゃなくて……アイドルに、なる方」


「なる方……?」


 それはつまり、俺が男性アイドルになるってこと……か?

 考えたこともなくて、一瞬何を言われてるのかわからなかった。


 なので、一応ちょっと思案してはみたものの。


「……いや、別に興味ないけど」


 当然、この回答となった。


「まー、そうだよねー。秀くんの立場だと家継がないとだから、アイドルなんてやってる暇ないもんねー」


「ん……? まぁ、それもあるっちゃあるけど……」


「でも、それってちょっと勿体ない気もするよね」


「えっ、何が……?」


「ワンチャン、学生の間だけでもやってみるとかどうかな? 私、舞台で歌って踊る秀くんの姿を見てみたいしっ」


「んんっ……?」


 なんだろう、微妙に話がすれ違ってるような気が……。


「なんか、俺がその気になればアイドルにはなれるって前提で話してないか……?」


「え? それはなれるでしょ?」


 え? なんでそんな「なに当然のこと聞いてんの?」みたいな顔なの……?


「な、何を根拠に……?」


「うーん……主に、顔?」


「主にそこが無理な要因だと思うんですが……」


「は? ウチの旦那はそこいらのアイドルなんかよりよほど面が良いのだが? 本人にもその自覚を持っていただきたいのだか?」


「やべぇ時の一葉と同じ目をしている……!?」


 ていうか俺、これ何で怒られてんの……!?


「いや、俺なんか平凡な顔立ちなわけで……」


「おっと、戦争か? キリリとした眉が格好良いし、意思の強さが垣間見える瞳も魅力的だし、目元のホクロがセクシーだし、真面目な顔をしてるとクールでどこか神聖な雰囲気すら感じるのに、笑うと途端に可愛さが……」


「わ、わかったわかった! わかったから止めてくれ!」


 これ以上は恥ずかしさに耐えれる気がしなくて、ギブアップ宣言。


「何がわかったのかな?」


「俺は格好いいです! 俺氏、見た目が良い!」


 ここだけ切り取ると、俺すげぇナルシストみたいじゃない……!?


「うん、わかってくれたなら良いよっ」


 そう言いながら、ニパッと笑う唯華。


 機嫌が治ってくれたのは良いけど……真顔であんな事つらつら言うって、唯華には恥ずかしさという感情が存在しないのか……!?

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