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SS6 ビックリさせて

「ヒック! ……ヒック!」


 リビングに、唯華のしゃっくり音が響く。


「ひぃん、止まらないよぉ……ヒック!」


 眉尻を下げ、唯華は辛そうな表情で横隔膜の辺りをさすっていた。


「秀くん、私をビックリさせてぇ……ヒック!」


「そのフリでビックリさせることって、ホントに可能なのか……?」


 だいぶ無茶振り気味な気がするけど……でも、唯華の力になってやりたいのは事実。


「……わっ!」


 とりあえず、突如大声を出してみた。


「ふふっ、流石にそれじゃあ驚けないかなぁ……ヒック!」


「……だよな」


 唯華はクスクス笑ってくれたけど、本来の目的は全く果たせていない。


 とはいえ、他にどんな手があるかなぁ……そうだ。


 突然、思わぬことを言ってみる……ってのはどうだろうか。


「唯華……こんな時に言うのも申し訳ないんだけど、実は俺さ」


 俺は真剣な調子を意識して、いかにも重大そうなことを発表する雰囲気を出す。


「うん、なになに?」


 どこかワクワクした表情の唯華へと。


「浮気を……して、います」


 いかにも辛そうな表情を顔に作って、『懺悔』した結果。


「は?」


 唯華の顔から、一切の感情が消えた。


「………………」


 えっ、なんか、怖っ……目のハイライトが消えてる気がするけど、それどうなってんの……!?


「………………」


 無言でただジッと見つめてくるのやめて!?


「………………」


 せめて何か言って!?


「も、もちろん嘘……」


「なーんちゃって♪」


 プレッシャーに耐えかねてネタバラシした俺の言葉に、唯華の声が被さってきた。


 さっきまで真顔だったのが嘘だったみたいなニンマリ顔だ。


「ふふっ、ビックリした? ヒック」


「そっちが俺を驚かせてどうするんだよ……」


 しかも、結局しゃっくりは止まってないみたいだし。


「マジ反応かと思って、ぶっちゃけ結構ビビったけどさ……」


「やだなぁ、秀くん。私は、重さとは無縁な女だよ? ……ヒック」


 と、唯華は少し上体を傾けて俺を見上げる。


「安心して? 実際そうなった(・・・・・・・)としても(・・・・)あんな風にはならない(・・・・・・・・・・)から(・・)


「う、うん……そう……」


 一瞬、また目のハイライトが消えてたような気がするのは気のせいだよな……?


「何にせよ、そんな一瞬で嘘ってわかるような嘘じゃ驚けないよ……ヒック! 秀くんが約束を反故にするようなマネするわけないって、知ってるんだし……ヒック! 」


「あ、あぁ、当然だよ……」


 それは、前に「俺には唯華だけだ」って伝えた件を指しているんだろう。


 もちろん元々する気なんてなかったけれど、改めて浮気なんて絶対にすまいと固く心に誓う俺だった。


 いや、別に何らかの他意があるわけじゃなく、純粋に誓いを新たにした的な意味でね?


「さて、次は何をしてくれるのかな? ヒック」


「なんか、趣旨が変わってきてないか……?」


 期待の目を向けてくる唯華を相手に、思わず苦笑が漏れる。


 次は、どうしような……驚かせるっつってもな……。

 嘘報告的なのはなんかもうあんまりやりたくないし、そうなると……。


 ……そうだ、こういうのはどうだろう?


「唯華」


 呼びかけながら、その顎をクイッと指で少し持ち上げる。

 それで、ちょうどいい角度(・・・・・・・・)になった。


 俺は、ゆっくりと顔を近づけていき……互いの吐息が唇に感じられる距離で、止まる。


「………………」


「………………」


 そのまま無言で見つめ合うこと、数秒。


「……しないの(・・・・)?」


「~~~~~~~~!」


 どこか挑発的な唯華の言葉に、猛烈な恥ずかしさがこみ上げてきた。

 火が点きそうなくらいに顔が熱い。


「ごめん! こんなのじゃ驚かないよな!」


 身体ごと顔を背けながら、反省。


 そうだよな、こんなのホントにするわけないってわかってるんだから驚くわけないよな……。


「あっ、いや、ビックリはしたよ? 大丈夫大丈夫! ほら、しゃっくりも止まった気がするし!」


 唯華の懸命なフォローが、余計に恥ずかしさを増幅させるな……。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 ビッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッックリしたぁ!?!?!?!?


 キスしちゃうかと思ったキスしちゃうかと思ったキスしちゃうかと思ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 大丈夫!? 私、クールな女として振る舞えてた!?

 秀くんが顔を背けるのがあと一秒遅かったら、この真っ赤になった顔を見られるところだったよ……!


 もう、秀くんったら……こんな手を繰り出してくるなんて……!


 しゃっくりどころか、心臓まで止まっちゃっうかと思ったぁ……!

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