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SS1 もう一つのプレゼント

 無事に市役所へと婚姻届を提出し、帰宅した後。


「秀くん、はいこれ」


 自室に引っ込んだかと思えば、すぐに戻ってきた唯華が俺にラッピングされた箱を差し出してきた。


「えっと……これは?」


 薄々察しつつも、一応それを指差して尋ねてみる。


「あはっ、誕生日プレゼントに決まってるでしょ」


 果たして、唯華はそう言ってクスリと笑った。


「でも、プレゼントは……」


「もちろん」


 とそこで、なぜか唯華はニンマリ笑いながらスススッと身を寄せてくる。


「私を返品しろ、だなんて言わないよ? ていうかこれ(・・)、返品不可だから」


 それから、自身の胸を指しながら俺の耳元でそう囁いた。


「私はもう、秀くんのモノ……一生、ね?」


「あ、おぅ……」


 なぜかその言葉がやけに艶っぽく聞こえてしまい、返答がしどろもどろな感じになってしまう。


「とはいえ」


 スッと俺から離れた唯華は、今度は思うところのなさそうな笑みを浮かべた。


「やっぱり、形に残る物も贈りたいと思って。もう一つ、プレゼントを用意したの」


「そっか……ありがとな」


 その心遣いを嬉しく思いながら、プレゼントの箱を受け取る。


「開けてみても?」


「もっちろん! 開けて開けてっ」


 唯華の許可も得たところでリボンを解き、破けないようゆっくり包装紙を開いていく。


「やけに慎重だね?」


「せっかく唯華に貰ったものだし、ちゃんと全部キレイな状態で受け取りたくてな」


「んふっ、そっか」


 横目に、嬉しそうに微笑む唯華の顔を見ながら……包装紙を外し、箱を開けた。

 すると、顔を覗かせたのは。


「おっ、タイピンか」


 シルバーに輝くネクタイピンだった。


 ワンポイントで、精緻な葉っぱの模様が彫刻されている。


「今使ってるやつ、だいぶ古びてきてたでしょ? だから、どうかなって」


「うん、そうなんだよ。ちょうど、新しいの買おうと思ってたとこだったんだ。すげぇ嬉しいよ」


 プレゼントそのものも、もちろん嬉しいんだけど。


 普段から俺のことを見てくれてて、俺の気持ちを察してくれたからこそのチョイスなのが一番嬉しかった。


「この葉っぱは……アイビーかな?」


「おっ、流石。よくわかったね」


 正解だったらしく、唯華はピッと俺を指差す。


「花言葉は、友情、不滅。私達らしい……でしょ?」


「あぁ、ホントだな」


 知らなかったけど、確かにそれなら俺たちにピッタリだと思う。


「不滅の友情を思って……心を込めて、描かせていただきました」


「ん……? それって……」


 もしかして……。


「唯華が、このアイビーを彫ったってこと?」


「そうだよー」


「そうなの!?」


 凄く美しい彫刻だから、完全にプロの仕事だと思ってた……!


「ま、ちょちょいっとね」


「器用なのは知ってたけど、ホント器用だな……」


 軽い調子で言う唯華だけど、改めてその凄さを思い知った気分だ。


「ねぇ、ところでさ」


 だけど、唯華はそんなの何でもないとばかりに話を変える。


「プレゼントには、それぞれ隠された意味があるって話……知ってる?」


「あー……なんか、指輪は『束縛』とかそういうやつだっけ?」


「そうそう、そういうの」


 なんか、ボヤッと聞いたことしかないけれど。


「唯華も、何か意味を込めて贈ってくれたってことか?」


 たぶん、この場合はそういう話に繋がるんだろう。


「ん、そうだよ」


 果たして、唯華はコクリと頷いた。


「あのね……ネクタイピンに、込められた意味は」


 とそこで、一旦言葉を切り。


「貴方を、見守っています」


 微笑んで、唯華はそう言ってくれた。


「一緒にいない時でも、私が……不滅の友情が見守ってるって思って、身に付けてくれると嬉しいな」


「……あぁ」


 その想いが、じんわりと温かく胸に広がっていく。


「そうさせてもらうよ! ありがとう、唯華!」


 このネクタイピンがあれば、仮に先日みたいなことがまたあっても今度こそ自分を保つ事が出来る。

 心から、そう思えた


 今年の誕生日は、スタートから例年とは少し違う一日だったけれど。


 本当に……これまでの人生で、一番の誕生日だ!



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆


 ……と。


 秀くんに語ったのも、嘘じゃないけれど。


 アイビーには他にも花言葉があって……それは、『永遠の愛』。

 これは、私からの誓いの言葉のつもりだった。


 それから、ネクタイピンにも実はもう一つ意味があって……『あなたは私のもの』、って。

 こっちは、ちょっとした独占欲を込めちゃった。


 まぁでも、アクセサリ類のプレゼントには多かれ少なかれそういう意味が付いちゃうみたいだし?

 その中では、ネクタイピンなんて全然軽い方だよね。


 そう……私は、重さとは無縁の女。


 実のところ今回のプレゼントはずっと前から計画してて、彫刻職人さんの元での修行の成果だったりもするんだけど……それを知られると流石にちょーっとだけ重く思われちゃう可能性もあるので、この事実は私の胸の内だけに仕舞っておくことにする。

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