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第43話 おうちへ帰ろう

 実家(ウチ)の正門から、秀くんと一緒に歩み出て。


『……ふぅっ』


 私たちは、ほとんど同時に深い溜息を吐く。


 昨日から色々あって、つっかれたぁ……!


 ……でも、だからこそ。


「ごめんね、秀くん」


 これだけは、ちゃんと言っておかないといけないと思った。


「何のことだ?」


 わかってるだろうに、秀くんは「謝ることなんて何もない」とばかりに惚けてくれる。


 だけど、流石に今回ばかりはそれに甘えるわけにもいかない。


「勘違いして、色々迷惑かけちゃったから。お婆様にも、実家にも……秀くんにも」


「少なくとも俺は、迷惑だなんて思っちゃいないさ」


「だけど、沢山……心配、かけちゃったでしょ?」


「ん、まぁ……な」


 言葉を重ねる私に、秀くんはちょっと気まずげに頬を掻いた。


「電話も繋がらないしで、今日までホントに何が起こってるのかもわからなかったからな……」


「えっ、ホント?」


 私は、慌ててポケットからスマホを取り出す。


「うわっ、バッテリー切れたままだった……」


 昨日から、お婆様をどう説得するかってことだけで頭がいっぱいで充電どころか確認もしてなかった……。


「実家の方に掛けても、何も教えてもらえなかったしさ」


「あー……」


 それも知らなかったけど、今となっては何となく察せる。


「それ、たぶんお婆様なりのお気遣いで箝口令敷いてくれてたんだと思う……私の恥ずかしい勘違いが秀くんに伝わらないように、って……」


「あー……なんつーか、悪かったな。俺が来たせいで、状況を余計に引っ掻き回しちゃってさ」


「そんなことないよ!」


 少しバツが悪そうに謝る秀くんの言葉を、即座に否定。


「結果的には、色々勘違いとかが重なってたせいなわけなんけど……それでも私、秀くんが来てくれた時はすっごく嬉しかったんだから!」


 それだけは、本当に本当だから。


「あの時の秀くん……ヒーローみたいでさ」


 思い出すだけで、胸が高鳴る。


「格好良かったよ」


「そう言ってもらえると、少しは救われるかな……」


 苦笑する秀くんは、たぶん話半分くらいにしか受け取ってなさそう。


「最初は、俺が何かやらかして愛想を尽かされちまったのかと思ったからさ」


 それどころか、そんなことを言うものだから。


「それは、ありえない!」


 私は、さっき以上の声量で叫んだ。


「絶対……ありえないから」


 本気を込めて、秀くんの目をジッと見つめる。


「……でも」


 だけど。


「んんっ……! 思い返す程に、そう思われても仕方ない状況だったよねぇ……!」


 ぶっちゃけ、これは私でもそう思っちゃうよねぇ……!


 突然消えたパートナー、繋がらない携帯、取り付く島のない実家、極めつけに書き置きの文面は『実家に帰ります』オンリーときたもんだ!


 真っ先にその(・・)可能性が思い浮かぶ材料しかない……!


 お婆様がさっさと出ていっちゃうもんだから、急ぎで最小限の情報しか書き残さなかったのがマズかった……!


「ホンット、ごめんねぇ!」


「ははっ、いいってば。今となっちゃ笑い話だ」


 両手を合わせて頭を下げる私に、秀くんは軽い調子で手を振る。


「それに、さ」


 それから、フッと小さく笑った。


「なんつーか……今回の件は、良い機会だったとも思うんだ」


「良い機会……?」


 何のことかわからず、私は首を捻る。


「俺にとって、唯華の存在がどれだけ大きくなっていたか……改めて、実感出来たから」


 ジッと秀くんから見つめられて……その目にいつにない熱情のようなものが感じられる気がして、なんだかドキドキしてきちゃう。


「君がいなくなったあの部屋は、君がいなくなっただけなのに空っぽみたいに感じられて」


 吸い寄せられるみたいに、目が離せない。

 

「二度と会えないんじゃないか、もう話も出来ないんじゃないかって考えると、怖くて仕方なかった」


「それは、私も……」


 同じだった、って言おうとしたけれど。


 きっと、全く違うんだろうってことに気付く。


 私は、色々な勘違いの結果ではありつつも……結局は、自分の意思で秀くんの元を離れることを決めた。

 お婆様の説得は困難を極めるだろうとは思ってたけど、絶対やり遂げるって決めてた。


 絶対、秀くんのところに帰るんだって……帰れるって、信じてた。


 だけど、秀くんは違う。


「ごめん、秀くん」


 三度目の……これまでで一番の罪悪感と一緒の謝罪。


 だって私は……秀くんに心から申し訳なく思いながらも、同時に。

 そんな風に私のことを想ってくれていることに、嬉しさも感じちゃってる。


「ははっ、唯華が謝るようなことなんて何もないって」


 秀くんは、きっと本心からそう言ってくれてる。


「ごめんね」


 でも、やっぱり謝らずにはいられなくて……私は、秀くんに正面からギュッと抱きついた。


「もう二度と、離れたりなんてしないから」


 そんな、想いを込めて。


「あぁ……それが、一番だけど」


 トクントクンと、私の胸の辺りに秀くんの鼓動が直接伝わってきた。

 きっと、私の鼓動も秀くんに伝わってる。


「俺には、さっきの言葉で十分だよ」


「さっきの……?」


「俺に愛想を尽かすことなんて、ありえないって……言ってくれたろ?」


「うん、それは絶対そうだけど……」


 改めてもう一度頷くけど、それがどうしたっていうんだろ……?


「だったら俺は……仮に()があったとしても、次もやる(・・・・)だけだ」


 間近で、秀くんが好戦的な笑みが浮かべるのが見えた。


「どんな事態になろうと、あらゆる手段を用いて唯華を迎えに行く」


 そう言いながら、秀くんはそっと私を抱きしめ返してくれる。


「俺からは、逃げられないからな? 覚悟しとけよ?」


 表面上は、脅すような……そんな、口説き文句。


 ズルいなぁ、ホント……格好良すぎるんだから。


「んっ」


 私は真っ赤になっているだろう顔を隠すのも兼ねて、頷きながら秀くんの肩の辺りに顔を埋める。


 そのまましばらくの間、二人無言のまま抱き合って……こうしていると、無限に鼓動が高鳴っていきそう。


 ……なんて、思っていたところ。


「イチャつくんなら、後は家でやりなと言ったろう」


『うぉわっ!?』


 正門から顔だけ出したお婆様がボソッとそんなことを言ってきたもんだから、私たちは飛び上がるようにして離れた。


 それで満足したのか、お婆様はそのまま何も言わずススッと顔を引っ込めて正門も静かに閉まる。


『………………』


 さっきまでとは別の意味でドキドキと高鳴る胸を押さえながら、秀くんと顔を見合わせて。


『……ははっ』


 どちらからともなく、微苦笑が漏れた。


「それじゃ……唯華」


 コホンと咳払いした後、秀くんが手を差し出してくる。


「帰ろう」


 それから、そう言いながら微笑んだ。


「俺たちの、家に」


 それに対して私は……もちろん。


「うんっ!」


 満面の笑みで、秀くんの手を取って。


 実際には、せいぜい一日空けたくらい。

 なのに、随分と恋しく感じる……私たちの家(ウチ)への帰路を、二人並んで歩き始めるのだった。

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