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第41話 あなたに幸せを

「おごぁ……!? 穴があったら入りたい……!」


 『実家に連れ戻された』という事実そのものが勘違いだったと判明し、唯華が頭を抱えてうずくまる中。


「あの、すみません……一つ、伺いたいのですが……」


 薄々察しつつも、俺は華乃さんに向けて恐る恐る手を挙げる。


「嫁入り道具を運び入れようとしていたということは、貴女は最初から俺たちの結婚に……?」


「あたしゃ、一度も反対だなんて言った覚えはないよ」


 そう……言われてみれば、確かにそうなのである……!


「こっ……」


 俺も状況を認識し、膝をつく。


「ここまで、数々のご無礼をば……!」


 そして、華乃さんに向けて深く頭を下げた。


 喧嘩を売られたと思って完全に喧嘩腰でやってきたけど、それが勘違いだったんだとすれば単に失礼ぶちかましただけじゃねぇか……!


「くくっ、構わないよ。面白いもんを見れたしね」


「は、はぁ……」


 普通にキレても良い案件だと思うんだけど、華乃さんは言葉通り楽しそうに笑うのみ。


「にしても、ちょっと考えればわかるだろうに。既に婚姻によって結ばれている両家の縁をぶち壊しに出来るような権限が、引退したババアにあるわけないとさ」


「そうなんですか……?」


 衛太から聞いた話から、てっきりそのくらいは余裕なのかと思ってた……。


「……だとしても」


 と、頭を抱えていた唯華が若干復活した様子を見せながら再び会話に加わってくる。


「だとしても、お婆様は反対されるかと思っていました」


「なぜだい?」


 目を細める華乃さんからは、威圧感が放たれているようにも見えるけど……たぶんこれ、素でこんな感じなんだろうなこの人……っていうのが、なんかわかってきた気がする……。


「お婆様のおっしゃった通りで……私自身、お婆様の言う合格ラインには達していないと思っていますので……」


 唯華は、夜中に一人で目覚めた子供みたいに不安げな表情でそう口にする。


「まぁ、そうだねぇ」


 頷く華乃さんに、唯華は少しビクッとなった。


「頭ごなしに叱りつけるだけだったあたしにも、反省すべき点はあったと思っているんだよ……今は、ね」


「……?」


 だけど続けて華乃さんは微苦笑を浮かべながらそんな風に独りごちて、唯華は小さく首を傾ける。


「そもそもの話、あたしが何のために女の子らしくだの何だの口煩く言ってたと思うんだい?」


「はぁ……それは、烏丸家の女として恥じない存在であるようにと……」


「そういう側面も、なくはないけどね」


 フッと、どこか遠い目となって華乃さんは口元を緩めた。


「昔のアンタじゃ、嫁の貰い手なんてないだろうと思って……一応、あたしなりに心配してのことだったのさ。結果は、逆効果だったみたいだけどね」


「す、すみません…………」


「さっきも言った通り、あたしのやり方も上手くなかったと思っているよ」


 恐縮した様子で頭を下げる唯華に、華乃さんは肩をすくめてみせる。


「だからね。今のアンタにゃ、アタシの定める合格ラインなんぞ意味がない」


「えーと……?」


「つまり」


 そこで言葉を切って、華乃さんはチラリと俺を見る。


「旦那に見初められたってーなら、それが全てだろうよ。あたしが合格だの不合格だの言うような筋合いはないさ」


 み、見初めたというよりは、もうちょっと打算的な結婚ではあるわけですが……すみません……。


「誰かにとっての、唯一無二の華となれ」


 唯華の名前は、華乃さんが付けたって聞いてる。


 その言葉は、つまり名前に込められた願いで。


「あたしの願った通りの女の子に、アンタはもうなってるのさ」


「お婆様……!」


 感銘を受けた様子で、唯華は口元に手をやる。


 その目の端には、光るものも見て取れた。


「元々はね、あたしゃアンタにこう言ってやるつもりで帰国したんだよ」


 そんな唯華の頭の上に、華乃さんが優しく手を載せる。


「幸せにおなり、ってね」


「っ……!」


 その表情には、孫への慈しみだけが感じられた。


「はい……! はいっ、お婆様……! ありがとうございます……!」


 頷いた拍子に、つぅと涙が唯華の頬を濡らして落ちる。


「すみません、本当に……! お婆様は、私のことを想ってくれていたのに……私、恥ずかしい勘違いなんてしちゃって……!」


 言葉通り、唯華は照れ臭そうにはにかんだ。


「まぁそれに関しちゃ、途中からあえてそんな風(・・・・)に振る舞ってたってのも認めるけどね」


「なんでわざわざそんなことを!?」


 そして、イタズラっぽく微笑む華乃さんを相手に驚愕の表情となる。


「結婚の報告一つ寄越さない孫に、ちょっとした意趣返しくらいは許されると思わんかい? ねぇ、旦那様?」


「えーと……」


 俺の方に話を降られても、反応に困るんですが……!


 ていうか、もしかしてこの人……唯華から結婚の報告がなくて、ちょっと拗ねてただけ……だったり……?


「ま、おかげで旦那の人となりを見れたのは僥倖だったね」


 なんて密かに考えていた俺を見て、華乃さんはニヤリと笑う。


「アンタになら、安心して孫を任せられそうだよ」


「あ、ありがとうございます」


 今回の俺の行動は、完全に余計なことだったかと思ってたけど……少しは、意味もあったのかもしれない。


「俺、唯華のこと……」


 ここで、「幸せにします」と言えれば良かったんだろう。


 だけど俺たちの結婚は、本当の意味での結婚ではなくて。


 俺に、それを言う資格はないから。


「大切にします。一生、ずっと。何よりも……俺にとって、大切な存在なので」


 だから、俺に誓えることだけを誓うことにした。


「……あ、はっ」


 隣で、唯華が微笑みを浮かべる。


「お婆様」


 それから、改めて華乃さんと向き合った。


「私……いえ」


 途中で言葉を止めて、首を横に振る。


「私たち」


 チラリとこちらに視線を向けた唯華の笑みが、更に深まった。


「幸せになります! 今……幸せです!」


 そして、胸を張ってそう宣言する。


「あぁ、そのようだねぇ」


 華乃さんも、今度こそは思うところのなさそうな微笑みでそれを受け止めてくれた。


 こうして。


 当初の想定とは、かなり……相当に、違った形にはなったけども。


「二人共……結婚、おめでとう」


『っ……ありがとうございます!』


 無事、俺たちの結婚を祝福してもらうことが出来たのだった。

所用につき、次回更新は1回スキップして8/15(日)目処とさせてください。

お待たせすることになってしまい、大変申し訳ございません。

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