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第16話 あなたの目

「すぅ……はぁ……」


 ソファで読書している秀くんの後ろに立って、密かに一つ深呼吸。


「秀くんっ!」


「っ……!?」


 後ろから勢いよく抱き着くと、秀くんはちょっとだけビクッとする。


「ごめんごめん、驚かせちゃった?」


 なんて、本当は秀くんの驚いた顔が見たくてやったイタズラなんだけどねっ。


「ははっ……まぁ、ちょっとだけな」


 そう言いながら、秀くんが振り返ってきて…目が合った瞬間に、改めて思う。


「何か用だったか?」


「んー、用って程のことでもないんだけど」


 貴方の、目が好き。

 どんな私も受け入れてくれるように感じちゃう、真っ直ぐ見つめてくれる目が。


 昔のまん丸なお目々も可愛くて好きだったけど、今の切れ長の目は見てるだけでドキドキしちゃう。


「何を読んでるのかなって、ちょっと気になっただけ」


「何って、参考書だけど」


「あちゃっ……! それはホントにごめん! 勉強のお邪魔しちゃった!」


「ははっ、全然全然。今日はそろそろ切り上げようと思ってたところだったから、むしろちょうど良かったよ」


「そう……? なら良いけど……」


 貴方の、声が好き。

 いつも私を気遣ってくれる、誰よりも優しい響きの声が。


 ちょっぴり舌っ足らずで甘かった昔の声も好きだったけど、今の落ち着いた声の方がもっと好き。


「にしても秀くん、昔に輪をかけて勉強するようになったよねぇ」


「そりゃまぁ、昔より教科も増えてりゃ内容も高度になってるからな……」


「でも、テスト前だからって根詰め過ぎてない? ちゃんと息抜きもしてる?」


「あぁ、もう慣れたもんだし……何より、こうして唯華が良い息抜きの時間を提供してくれるからさ」


「あはっ、お役に立てているのなら幸いでございます」


 貴方の、ひたむきさが好き。

 昔っから、一度決めた目標は絶対に達成するまで諦めない姿に憧れてた。


 私は飽きっぽい性格だから、尚更。


「つーか、唯華の方こそホントに大丈夫なのか……?」


「まー、なんとかなるでしょ」


「ノリが軽いな……」


 十年前から、秀くんと結婚するって決めてたけど……再会の時、不安が全くなかったかと言えば流石に嘘になる。

 秀くんが、私が知ってるのと別人みたいに変わっちゃってたらどうしようって。


 見た目が物凄ーく格好良くなってから、尚更にね。


「ま、実際唯華が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうな。昔っからそうだ」


「でしょー?」


 だけど、そんなのは全くの杞憂だった。


 昔と一緒なところも、昔から変わったところも、全部好きになれるんだから。

 毎日……こうしてお話ししている間にも、どんどん『好き』が更新されていく。


 昔よりも、ずっとずっと好きになっていく。


 嗚呼、なんて幸せな日々。


「それなら……いっちょ、どうだ?」


 ……まぁ、あえて一つだけ難点を挙げるとすれば。


「せっかくだし、寝る前に一勝負といかないか?」


「ふふっ、受けて立とうっ」


 まだ私の一方的な気持ちでしかないっていうのが、ちょっとだけ悔しいけどね。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「そうだ、秀くん」


 秀くん、と俺を呼ぶ……君のその目が、思わず俺を勘違い(・・・)させそうになる。


 それが、まるでこの上なく愛しい人に向けられる視線みたいだと。


 いや……きっと、それも間違いってわけでもないんだろう。


 俺にとって、唯華が誰より大切な人であるように。

 唯華にとっても、『親友』は大切で愛しい存在なんだと思うから。


 だからこそ、勘違いしちゃいけないんだ。

 昔と同じノリでスキンシップしてくるのも、昔と同じ距離感で接してくるのも、俺を信頼してのことなんだから。


「勝負といえばさ」


 コントローラを握りながら、唯華は何気ない調子でそう切り出してくる。


「中間テストの結果でも、勝負してみない? せっかくだから、『なんでも権』を賭けてさ」


「おっ、出たな『なんでも権』勝負」


 昔っから、勝負の時にちょいちょいやってたゲームだ。


 まぁとはいえ何のことはない、その名の通り勝った方は負けた方の言うことを『なんでも』聞くっていうシンプルなものである。

 互いにそんな無茶な『お願い』をするわけでもないので、まぁ勝負を盛り上げるためのオマケみたいなもんだ。


 とはいえ。


「唯華、大して勉強もしてなさそうなのに自信アリか?」


「さぁ、どうでしょう? 手の内は明かせないなぁ」


「ははっ、勝負はもう始まってるってか?」


「そういうことっ」


 今の唯華を相手に『何でも』は、ちょっと危険な可能性があるからな……例えば、『マッサージ』とか……唯華はその辺、良くも悪くも俺に対して無頓着だからなぁ……。


 明日からの試験、いつも以上に気合い入れてかないとな……!



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 今回の、『なんでも権』勝負。


 正直、私としては勝っても負けてもどっちでもいい……というか、たぶん負けるんじゃないかなーって思ってる。

 秀くん、昔っから成績良かったもんねー。


 だけど、頑張ってる秀くんへのちょっとした『ご褒美』くらいはあってもいいんじゃないかなー……なんて。


 ふふっ……もちろん、わざと負けるつもりなんて少しもないけどねっ?



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 嗚呼、そうだ。


 決して、勘違い(・・・)しちゃいけない。


 唯華と一緒に過ごしていると、自然と胸に満ちていくこの温かさが。


 日を追う毎に、大きく育っていく感情が。


 『友情』以外の、『何か』だなんて。

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