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第15話 成長した二人

 とある夜。


「秀くん、入っていいー?」


 試験に向けての勉強を進めていたところ、そんな声と共に自室のドアがノックされた。


「あぁ、大丈夫だよ」


「お邪魔しまーす」


 俺の返事を受けて、唯華が中に入ってくる。


 パジャマ姿……今日は第二ボタンまで閉まってるけど、何度見ても慣れなくてドキリとしてしまった。


「どうかした?」


 それを誤魔化しがてら、用件を尋ねる。


「これ、続きも借りていい?」


 と、唯華が顔の横に持ってきたのはさっき俺が貸したマンガの一巻だ。


「いいけど……試験、大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫、授業ちゃんと聞いてるから」


 つまり、授業さえ真面目に聞いていれば試験前に特別勉強する必要はないってことか。


 そういえば唯華って、昔からすげぇ記憶力が良かったな……。

 俺、神経衰弱じゃ一回も勝てたことなかったんじゃないか?


「全巻そこにあるから、持っていってくれていいよ」


「了かーい」


 本棚を指差すと、唯華はおどけて敬礼のポーズを取って本棚へと歩み寄る。


「よっ、っと……むむっ……」


 って、しまったな。


 件のマンガは一番上の棚に並べてあるから、唯華の身長じゃちょっと取るのがしんどそうだ。


「ほい、これ」


 唯華の後ろに立って、続刊を抜き出して唯華へと差し出す。


「……ありがと」


 お礼を言いながら、なぜか唯華は背中越しにジッと俺の顔を見上げてきた。


 こ、この距離で見つめ合うのはかなりドキドキするんだが……!?


「秀くんさ、大きくなったよね」


「ははっ……またそれか?」


 再会した日と同じ言葉に、どうにか動揺を表に出さずに苦笑を浮かべられたと思う。


「や、なんかこうしてると改めて実感出来て。ほら、昔は私の方が背ぇ高かったでしょ? 全然追い抜かれちゃったなーって」


「そりゃな……」


 今の俺と唯華だと、俺の方がちょうど頭一つぶんくらい身長が高い。

 流石に、子供の頃のままの身長差じゃ困るっての……色んな意味で。


「それにさ」


 続いて、なぜか唯華はマンガを持つ俺の腕をさわさわと触り始めた。


「すっかり、『男の人』の身体になっちゃって」


「そりゃな……」


 さっきと同じリアクションを返しながら、密かに深呼吸して高鳴っていく心臓をどうにか鎮めようと試みる。


「流石に今はもう、秀くんの方が私より力も強いかな?」


「当たり前だろ」


「えー、ホントにー?」


 俺の返しに、唯華はクスクスと笑う。


「昔はお相撲したら、いっつも私の勝ちだったよね?」


「いくらなんでも、今は余裕で勝つっての」


「じゃ、確かめてみる?」


 んんっ……!?


 唯華は、なんでもないことみたいに言ったけど……それは、まさか『相撲で』という意味か……!?

 流石にこの歳になって、男女で相撲はマズいだろ……! なんか、その、色々と……!


 いやまぁ、唯華は昔と同じく平気なのかもしれないけど……。

 俺の方は、特にパジャマ姿が相手となると……とはいえここで断ると、なんか負けを認めたみたいになるしな……オーケー、閃いた。


「あぁ、望むところだ」


 まずは、不敵に笑って見せる。


「それじゃ、腕相撲(・・・)で勝負な」


 そして、さり気なく勝負の内容を変更してみた。


「オッケー!」


 すると、あっさり通ってくれてホッとする。


「やるからには負けないからねー?」


「や、普通に俺が勝つから」


「そういうの、慢心って言うんだよ? 私、これでも結構鍛えてるんだから」


 なんて言いながら、テーブルを挟んで向かい合う。


 ちなみに俺はといえば、至近距離での体勢からようやく抜け出せて密かにちょっとホッとしていた。

 唯華、昔と距離感が変わらな過ぎるからこっちの心臓に悪いんだよな……。


「それじゃ」


「おぅ」


 そんな内心はひた隠しに、お互い手を握る。

 唯華の手は思ったより小さくて、柔らかくて……これはこれで、あまりよろしい状況ではない気がしてきたな?


『レディ……ゴッ!』


 示し合わせなくても、開戦の声は揃った。


「ふぬぬっ……! えっ嘘、全然動かない……!?」


 歯を食いしばりながら込められる唯華の力は、確かに女性としてはかなりのものだと思う。


 とはいえ、俺も鍛えてるんでね。


「ほいっ、っと」


「おぉっ……!?」


 一気に勝負をつけるべく力を込めると、唯華は身体ごと傾けながら抵抗して……いやすげぇ傾くな!? どんなバランス感覚だよ!?

 ……って。


「きゃっ!?」


「危ねぇ!」


 流石に無理が過ぎて足を滑らせた唯華の下にどうにか回り込み、倒れてくる身体を受け止める。


「あっ……はは。ごめんごめん、つい夢中になっちゃって」


「気をつけろよ……?」


 俺の腕の中で苦笑する唯華へと、俺もまた苦笑を返した。

 無限に高鳴っていく心臓の鼓動よ、どうか伝わってくれるなと祈りながら。


 つーか唯華、思ってた以上に軽いな……。


「よっ……っと」


「ありがとー」


 立ち上がりながら、唯華の手を引き上げて立ち上がらせる。


「やー、やっぱり秀くんの圧勝だったねー」


「だろ?」


「素直に負けを認めます!」


 ニッコリ笑って、唯華はまた敬礼のポーズ。


「それじゃこれ、借りてくねー」


 それから、目的のマンガを手にして背中を向ける。


「おやすみ、秀くん」


「あぁ。おやすみ、唯華」


 顔だけ振り返った唯華と挨拶を交わし合って……唯華の出ていった後のドアが、閉まった。


「っふ、はっ……!」


 大きく息を吐き出しながら、少しずつ気持ちを落ち着ける。


 大丈夫……!? 俺、ちゃんと平静に振る舞えてた……!?


 ったく……唯華はてんでいつも通りだったってのに、俺ときたら……。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「うっ……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 部屋に戻った私は、ドアを閉めると即行でベッドにダイブしながら足をバタバタさせて小さく叫んでいた。


「えっ、なに今の欲張りハッピーセット……! 大安吉日今日の一位はてんびん座の私……!?」


 後ろに立った秀くんとの身長差を意識して、ドキッとして。


 腕を触って、その硬い感触に密かに驚いて。


 それに、腕相撲と称して手を繋いで……最後は、抱きとめてもらって!


 大丈夫!? 私、ちゃんと平静に振る舞えてた!?

 ずっとドキドキしっぱなしだったんだけど……!


「秀くん……ホントに、『男の人』になったんだなぁ……」


 しばらくバタバタしてようやくちょっと落ち着いてきたところで、ふと呟く。


 昔の秀くんは、どちらかといえばナヨッとして普段は頼りない感じで……私の後についてきてるイメージが強かった。

 今の秀くんも、細身だし私にはいつも優しい顔を向けてくれるからあんまり意識したことなかったけど。


 さっき抱きとめてくれた力強さは、確かに『男』を感じちゃって……改めてそう意識しちゃうと、凄くドキドキしちゃって……。


 明日から、ちゃんと今まで通りに顔を合わせられるかなぁ……!?


 もう……私は、こんなにアワアワしちゃってるっていうのにさ。

 秀くんの方はちょっとしか動揺してなかったの、なんだかズルイよね……!

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