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第122話 新たな季節へ

 文化祭が終わって、数日。


 まるでそれを境にしたかのように、日々の気温も下がってきた。

 それでも昼間はまだ少し汗ばむくらいだけど、日も暮れた今くらいの時間帯になれば……。


「もうすっかり涼しくて、風も秋の匂いになってきたねー」


 夕食の席に着きながら窓から吹いてくる風に軽く目を細めていたところ、キッチンからやってきた唯華が俺の心情をそのまま口にしてくれた。

 少し遠くから聞こえてくる虫の声なんかも、秋らしさを演出している。


「と、いうわけで~?」


 ニマッと笑った唯華が、後ろ手に隠していた皿を「じゃんっ」という口での効果音と共に前に出した。


「今日のメニューも、秋らしいのにしてみましたっ」


「おっ、いいねぇ」


 皿の上に鎮座するのは、塩焼きにされた立派なサンマだった。

 まだジュウジュウと音を鳴らしており、湯気と共に美味しそうな香りを立ち上らせている。


「それからね~」


 まだ唯華のイタズラっぽい笑みは変わらず、一旦キッチンに引っ込んだかと思えば戻ってきた手には。


「鶏とキノコの炊き込みご飯っ」


「おぉ~」


 これまた美味しそうに炊き上がっているきつね色の米が盛られた茶碗に、食欲がそそられる。


「それじゃ」


 早速食べようか、と促そうとした俺だけど。


「それからそれから~」


 唯華は、またキッチンの方へと引っ込んでいった。


「かぼちゃの甘辛ごま照り焼きに、カブの卵とじ、牛蒡と人参のサラダとー、おナスの揚げ浸しもあるよ! デザートにはスイートポテトとカボチャプリン、アップルパイも作っちゃいましたっ」


「す、凄いな……」


 次々と出てくるメニューに、心からの声が漏れる。


 一つ一つの量もそこそこあるし、食べ切れるかな……。


「それなりに日持ちするようにしてあるから、食べきれない分は明日また食べようね」


「あ、うん」


 流石というか、俺の考えていることはお見通しか。


 にしても、何でもない日なのにすげぇ豪華な食卓だな………………えっ、今日って何でもない日で合ってたよな?

 もしかして、何かの記念日だったりする?


 唯華の誕生日はもうちょっと先だし、結婚してからの日数も別にキリが良いわけでもなく、お見合いで再会した日も……。

 ……いや待て、ワンチャン俺たちが初めて出会った日とか……?


 えーと、あの時の正確な日付って……。


「秋っぽいメニューを考えてたら、次々に浮かんできてね。なんかテンション上がっちゃって、全部作っちゃったー」


 なんて、ちょっと照れくさそうな笑みを浮かべながら頬を掻く唯華。


 うん、俺が無駄に深読みしてしまってただけか。


「特別な記念日とかじゃないけど、たまには……ね?」


 ……ていうか、ホントに考えが全部見通されてるというか。

 大丈夫? 俺の心、読まれてたりしない?


 ま、まぁそれはともかくとして。


『いただきます』


 二人手を合わせて、食べ始める。


「ん、いつも美味いけど……今日は秋らしさ抜群で、見た目にも美味しいな」


 本音と共に、思わず頬がほころんだ。


「ふふっ、なら良かった」


 唯華も、一段と表情を緩ませている。


 それを何とは無しに眺めていると、ふと唯華が片眉を上げた。

 そして、ぷふっと破顔する。


「秀くん、唇にゴマ付いてるよ」


 トントン、と自分の口元を叩く唯華。

 不意にその形の良い唇を意識してしまって、無駄にドギマギしてしまう俺である。


「あ、うん、ありがとう」


 それが表に出ないよう意識しながら、自分の唇を指で拭う。


「あはっ、逆逆」


 その様を見て、唯華は更に笑みを深めた。


「おっと、そうか……」


 自ら指し示す唯華の唇にまた引き寄せられそうになる視線をそっと外しながら、さっきと逆側を撫でる。


 けど、己の指に目をやっても何かが付いてるようには見えなかった。


「ちょっとズレてるっていうか、変なとこに付いちゃってるよ」


 言いながら、テーブル越しに唯華が身を乗り出して手を伸ばしてくる。


 思わぬ行動にリアクションする間もなく、細い指が俺の唇をついと撫でた。


 触れる程度の、けれど妙に蠱惑的にも思える感触。

 背中を、快感にも似たよくわからない何かが走った……ような、気がした。


 それをまた表に出さないよう意識しながら、何気なく「ありがとう」と……言おうと、したんだけど。


「!?」


 次の唯華の行動に、ついつい言葉が引っ込んでしまった。


「ん? どうかした?」


 当の唯華は、いつも通りの調子で首を捻っている。


 ん、あ、おう、そうだな……。

 俺が変に気にしているだけで、今のなんて何でもない行動だよな……。


 幼馴染で、親友で、まぁ……夫婦でも、あるんだし?

 そう、だから……。


 俺の唇に当てた指を、舐め取るくらい。


 何でもない……はず、たぶん……。

 少なくとも唯華はそう思ってるわけだし、俺が過剰に反応してしまうと変な空気になってしまうこと請け合いだ。


 というわけで。


「ありがとう。はは、そんなとこに付いてたんだ」


 さっき唯華に触れられたのが唇のどこなのかさえまともに認識出来てないのに、何気ない調子を装ってポーカーフェイスをどうにか保つ俺なのだった。



   ♥   ♥   ♥



 自分の指をペロッと舐め取った私は、思う。


 これは……!

 思ったより恥ずかしい……!


 間接のは何回もやってるし、ていうか……『本物』だって、したんだし?

 これくらい、何でもないよね~ってノリでやっちゃったけど……。


 秀くんの唇に触れた指を舐めるって、これはもうワンチャン普通のやつよりエッチなのでは……!?


 あぁもう、なのに秀くんったら平気そうな顔しちゃってさ。

 秀くん的には、こんなの何でもない……って、ことなのかな……?


 なら、文化祭の時のことは……どう、思ってるんだろう?


 あの『事故』について、未だに私も秀くんも一言も触れてはいない。

 私としては、口に出すとなんだか夢になっちゃいそうで……あと、普通に挙動不審気味になっちゃいそうで言及出来ずにいるんだけど。


 秀くんの方は、どうなの?


 少しは……秀くんも。

 嬉しい、って思ってくれてる気持ちもあったりするのかな?


 思い起こせば、夏休みからこっち色んなことがあった。

 皆でプールに行って、二人で新婚旅行にも行って、一緒に文化祭を楽しんで、ジンクスを見つけたり……『事故』が、起こったり。


 その度に私はドキドキして、ますます秀くんへの気持ちが大きくなるのを自覚してる。


 秀くんも……そんな風に思ってくれてたら、いいのにな。


 ……んーん、違う。

 思ってくれてたらいいな、なんて消極的な姿勢じゃダメだよね。


 そんな風に思ってもらえるように……これからも、沢山アプローチしちゃうんだから!

 秋だって、楽しいイベントが盛り沢山だもんねっ?


 ふふっ……まずは、何から始めよっかな~♪

ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

今回より、第4章開始です。


また、『男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について』コミックスの1巻が9/27(水)に発売されます。

もくふう先生に可愛く美しく格好良く描いていただいておりますコミカライズ、原作を読んでいただいてる方には更に楽しんでいただける内容となっておりますので、是非ともお手に取っていただけますと幸いです。

https://dengekidaioh-g.jp/product/322305000458.html

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[一言] 面白いです、良い物語をありがとうございます。
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