第121話 約束、したからねっ?
キャンプファイヤーを囲んで皆がフォークダンスを踊っているグラウンドまで、華音ちゃんに腕を引かれてやってきた俺と唯華。
「ベストカップル、ごとーちゃーく!」
「いよいよ本日の主役のご参戦ですね」
華音ちゃんと財前会長の司会コンビが盛り上げると、ワッと周囲の生徒たちも沸く。
この空気の中で参加するのは、ちょっと……いや、だいぶ恥ずかしいな……。
「てか俺、よく考えたらフォークダンスって初めてだし踊り方ちゃんと覚えてないかも」
「それじゃ、私が教えてあげるね? 手取り足取りっ」
と、文字通りに唯華が俺の手を取った。
「いっちにー、いっちにーっ。左足出してー? 引いてー? クルッと回ってー……交代! は、今回はナシね」
「っと、っと、っと……こんな感じかな?」
唯華が見せてくれるのに合わせて、ステップを踏んでいく。
「そーそー、上手上手っ! 考えてみれば、社交ダンスやってるんだから余裕でしょ!」
「流石に一緒には出来ないけどな……」
未だに、この距離で唯華と繋がっているというのは少し緊張するけれど。
勿論、表には出さない。
「それじゃ、ここからスピードアーップ!」
「そういうダンスじゃないだろ……!?」
「そう言いながらも、ちゃんと付いてきてくれてるぅ!」
「どんどんスピード上げていくよな……!?」
「まだまだいくよー! 更にダンスもアレンジだっ!」
「これもう、ほぼクイックステップとかの動き……!」
「はい、最後にポーズ……決めっ!」
「っとと……!」
「おぉっ、凄い拍手もらっちゃった……!」
「何に対する拍手なんだって話だけどな……」
なんて、ちょっと苦笑しつつも。
こんな風に自由なのが唯華らしくて。
そんな唯華に振り回されるのが、俺らしい気がして。
なんとも俺たちらしい後夜祭だな、なんて思う俺なのだった。
♥ ♥ ♥
楽しかった文化祭も、もうすぐおしまい。
ちょっと寂しいけれど……。
忙しくも、とってもやりがいのある準備期間を経て。
当日は一緒に楽しく回って。
ハートを探して、ベストカップルコンテストに選ばれちゃって。
……キスも、しちゃって。
そして、秀くんがハートを見つけてくれた。
私たちの関係性に、進展って……あった、のかな?
今もまだ、『親友』としか思われて……ない?
「後は、ゆっくろ踊ろ?」
「それが本来の姿だしな……」
「でもウチの学校、自由だよね。フォークダンス参加も任意、交代も任意で良いなんて」
「俺も、去年まではその辺りに助けられてたよ……」
「それに、さっきみたいなことしても怒られるどころか拍手くれるしっ」
「基本、皆ノリが良いよな」
「あっ、また華音が一葉ちゃんを物理的に振り回してるーっ。ウチの妹がごめんねー?」
「ははっ、まぁ一葉もあれで楽しそうだし」
「……ホントに? なんかめちゃめちゃキレてない?」
「……本心では楽しんでるはず。たぶん。きっと。楽しんでいると良いですね」
「あはは……おっ? あっちでは会長さんが瑛太を誘ってる? まさかあの二人……!」
「いや……財前会長のあの顔は、高橋さんとの関係を勘ぐってるやつだ」
「あはっ、確かにー」
ゆったり踊りながら、そんな何気ない会話を交わし……私は、目を細める。
「皆、楽しそうだね」
「文化祭だからな」
「うーん、それはちょっと違うなー」
「えっ……?」
今はまだ、夫婦であっても恋人ではなくて。
「私たちで作り上げた文化祭……でしょっ?」
「……あぁ、そうだな!」
まだまだ勇気の出ない、私たちの。
♠ ♠ ♠
「でも私、こうして皆でワイワイ踊るの夢だったんだー。また一つ、叶っちゃったっ」
「向こうでも、プロムとかあったんじゃないのか?」
「まーあったけど、私は不参加だったしー」
「へー、なんで? 好きそうなのに」
「だって、参加したら誰かと踊らないといけないでしょ?」
「踊りたかったんじゃないのか?」
「最初に踊りたい人は、遠くにいたから」
「……それは」
「………………」
「自惚れても、いいんだよな?」
「……ん」
「……ん゛んっ! ほ、他にはどんな夢があるんだっ?」
「他にはねー、皆でワイワイBBQ! は、もう叶ったからー。卒業旅行で皆で記念写真っ。ハロウィンには、また別のコスプレもしてみたいしー。年末年始には、二年参りもしてみたいなー。年が明けたら初詣で大吉引いてー。あっ、節分もしっかりやらないとねっ。向こうじゃやらなかったからっ。おっと、クリスマス抜かしちゃってたっ。サンタさんの格好もしたいし、サンタさんからプレゼントも貰いたいなーっ」
「ははっ、盛りだくさんだ」
「あとは……」
「あとは?」
「……好きな人と結ばれる、とか?」
「そ、か……」
「ふふっ、なんか変な顔ー」
「いや、まぁその、ゆーくんらしからぬ台詞だと思ってな」
「今の私は普通に乙女ですものー」
「だな……唯華の夢、全部叶うよう全力で協力するよ」
「ホントに? 全部?」
「あぁ……全部」
「じゃあ……協力、してもらっちゃおっかなっ」
少しずつ踏み出し始めた、俺たちの
♠ ♠ ♠
♥ ♥ ♥
「約束、したからねっ?」
新婚生活が、これからどう変化していくのか。
まだ、誰にもわからない。
ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
これにて、第3章完結です。
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好評発売中の書籍版3巻も、どうぞよろしくお願い致します。
https://sneakerbunko.jp/series/danshidato/







