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第89話 スキ? キライ?

 汗だくな上に着衣は乱れてて、ちょっと息も荒らげているという姿で出迎えた私たちを見て『何か』を察した感じの華音だったけど。


「ま、言うて最初からわかってたけどねーっ?」


 私たちの説明を受けて、あっけらかんと笑う。

 まぁそうだよね……私たちが、その……『そういうこと』をする、関係じゃないって……華音は、知ってるんだし。


「そう簡単にいく二人じゃないからこそ、やりがいがあるんだもんねーっ」


 なんか呟いてニヤニヤしてる華音だけど、何のことやら……。


「あっ、そうだ忘れてたっ!」


 そこでふと、華音は何かを思い出したような表情に。


「グッモーニンッ、お義兄さんっ!」


 そして、ガバッと秀くんに抱きついた。


「……おはよう、華音ちゃん」


 前は義妹からのスキンシップとして普通に受け入れてた秀くんだけど、華音の気持ちを知った今はちょっと複雑な表情を浮かべている……ていうか!


「華音、それ毎回やらないといけないノルマ的なやつなの……!?」


「えっ? だって、親しい間柄でも挨拶は大事でしょ?」


「その言葉自体は合ってるんだけどねぇ……!」


 私の言わんとしていることはわかってるだろうに、華音は素知らぬ表情。

 かと思えば、スンスンッと鼻を鳴らした。


「お義兄さん、汗くさーいっ♪」


「汗だくだからね……汗臭いから、離れてもらえるかな?」


「んー? 汗くさくて、いい匂いだよっ?」


「そんなわけないでしょ……」


「あるんだーもんっ♪」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?


 華音ったら、何やってんの!?

 あんな間近でクンクンと秀くんの匂いを嗅いだりして……!


 私だって、こっそり嗅ぐに留めてるっていうのにぃ……!


「さて、お姉もグッモーニーンッ!」


「ちょっ、私も汗だくだからあんまり近づかないで……!」


 実の妹といえど今の匂いを嗅がれるのは避けたい乙女心から、私はこっちに向かってくる華音の肩を押さえてガチ気味に拒絶する……と。


「今の私には、お義兄さんの汗が大量に付着している」


「っ!」


 そう囁かれ、衝撃が走る。その発想はなかった……!


 葛藤は、一瞬。


「……まぁでもやっぱり、挨拶は確かに大事だよね。おはよう、華音」


 私は、華音をスッと自ら抱きしめた。


「……?」


 一瞬で前言を翻した私に、秀くんはちょっと不思議そうな表情を浮かべている……けど、今はそれよりも集中すべきは嗅覚だ。


 真っ先に感じられるのは、夏場に華音が常用してる爽やかなボディミストの香り。

 その奥に、自分自身のものに似たどこか安心するような匂いがあって……それに混じって。


 いつもより男性的な感じが強くて、ちょっと刺激的で、嗅いでいると落ち着くのに、逆にドキドキもしちゃう、それは……。


「んふっ」


 汗くさーい♪


「にひっ」


 どうにか澄まし顔を保っている私を見て、華音はニマリと笑う。


「お姉からは、メスの香りがするねっ?」


「もうちょい別の言い方はなかったの……!?」


 確かに今、内心でメスの顔になってることは否定出来ないけども……!


「あっと。お義兄さん、安心してね? 女の子らしい、あまーい香りってことだからっ」


「ははっ……知ってるよ」


 ………………んんっ?


「ほっほーん?」


 華音の目が、キラーンと光った……ような、気がする。


「お義兄さんは、お姉の匂いを『知ってる』んだぁ? そっかそっかー」


「いや、変な意味じゃなくてね? 一緒に暮らしてると、どうしてもすれ違う瞬間とかにフワッと良い匂いがするなって瞬間があったりで……」


 秀くんは、ちょっと慌てた様子で弁明する……けど。

 今……。


「ふっふーん?」


 華音の目が、またキラーンと光った……ような、気がする。


「お義兄さんはぁ? お姉の匂いを、『良い匂い』だって思ってるんだー?」


 って、やっぱり言ってたよね……!?


「や、違……!」


「えっ? 違うんだ? 違うってことは……お姉の匂い、臭いって思ってること?」


「断じてそんなことはないけども!」


 幸いにして秀くんはすぐ否定してくれたけど……なんてこと聞くの華音!

 ていうかこんな質問、人の心を持ってたら本心に関らず否定するに決まってるでしょ……!


「えー? どっちどっちー? お義兄さんはー? お姉の匂い、好き? 嫌い?」


「ねぇこの質問、答えないと駄目なのかな……!?」


「だって、お姉的にも気になるとこだよねーっ?」


「まぁ……はい……忌憚なきご意見をいただければと……」


 万一本当に臭いって秀くんに思われてたら、もう生きていけない……否!

 秀くんと添い遂げるまで私は生きる!


 もしもそうだったら、一時間に一回シャワーを浴びよう!

 全力で体質も改善しよう!

 今日この後、皮膚科に行って指導を受けよう!


「で? 好きなのー? 嫌いなのー?」


 繰り返される華音の質問に、秀くんは葛藤の顔……から、諦めの表情となり。


「……好き……です」


 良かった、これホントのコト言ってる時の顔!


「へー? それって、どんな風にー?」


「ドンナフウニ!?」


「具体的な感想がないと、ホントかわかんないでしょっ?」


「いや、その……えーと………………なんていうか、優しくて、柔らかいような香りで……? なんだか甘くて、爽やかで、落ち着くような……逆に、ソワソワしてしまうような……でも、それも心地良くて……まぁ、はい……そんな感じ……なんですけども……」


「あはっ、そうなんだーっ♪」


 顔を真っ赤にしながら答える秀くんの頬を突付きながら、華音はニヤニヤと凄く嬉しそうに笑っている。確かに、照れる秀くんは可愛いけども……!


「お姉、良かったねー?」


「そこまで聞けとは言ってない……!」


 今回ばかりは私も赤面を抑えることが出来ず、両手で顔を覆っていた。


 だって、秀くんが私の匂いを……そんな風に思っくれてる、とかさ……!

 すっごく嬉しいんだけど、死ぬほど照れる……!


「あっ、ちなみにちなみにぃ? お姉も、お義兄さんの匂いが大好きぃ♡ だって!」


「私そんなこと言ってないでしょ!?」


「あっ、そっかそっか。確かに『言って』はなかったよねぇ?」


 まぁ事実であり、さっき全力で堪能してしまったけども……!


「あー、っと。それより華音ちゃん、今日はそれを持ってきてくれたのかな?」


 私に飛び火してきたとこで、秀くんが華音の持つスイカを指差し話題を変えてくれた。


「はーい、そうでっす」


 華音も、あっさりそれに乗っかる。


「お祖母様が『山程貰って、腐らせるのも勿体ないから唯華のとこに持ってきな』って」


「めっちゃお祖母様のマネ上手いじゃん……」


「ちな、私経由でエアコン壊れたって話を聞いてから言い出したことなんでっ。意訳としては、『これでちょっとは涼んでね』ってことだと思いまーすっ」


「華音ちゃんは、お祖母さんと仲が良いんだね?」


「てか、昔のことがあるからってお姉が必要以上に怖がり過ぎなんだよねーっ。普通に接してたら、ちょっと口が悪いだけのただのツンデレじゃん?」


「それもどうかと思うけど……」


 思わず苦笑が漏れる。


「それじゃ、早速切っちゃうから。華音も食べてくでしょ?」


「や、実家(ウチ)に腐るほどあるってのは事実なんでー。てかそれ以前に、この気温でエアコン無しは普通にマジ勘弁っていうか」


「あー……うん、そっか」


 そう言われちゃうと、無理に引き止めることは出来なかった。


「そ・れ・にぃ?」


 と、華音はニンマリ笑う。


 私をからかう気満々の表情だけど、今度は何を言い出すのやら……。


「いずれは、三人で……っていうのもいいけどっ? 今日は二人だけで、さっきの続きをお楽しみ……シたいもんねっ?」


「ねぇ華音、やっぱりなんか変な勘違いしてない……!?」


「えー? 変な勘違いって、何がー? 私は、ラーメンの後はデザートも楽しみたいよねって言っただけなんだけどー? お姉の方こそ、なーんか変なこと考えてなーい?」


「ぐむっ……!」


「やっぱお姉って、ムッツリだよねー」


「ちょっともう、秀くんの前で変なこと言わないで!」


「お義兄さんの前じゃなきゃいいの?」


「それならまぁ多少は……」


「事実だから?」


「姉妹の間の可愛いジョークだからっ!」


 ホントもう、秀くんに誤解されちゃったらどうするの……!


 ……誤解、だからね?


「んじゃま、お姉をからかうノルマも果たしたところで私は帰りまーっす」


 そんなノルマは即刻廃止してしまえ……!


「あっ、そうだっ」


 踵を返しかけた華音は、またも何かを思い出したように秀くんに近づいていく。


「さよならのキス……むぐっ」


 そして、突き出した唇を秀くんに手で押さえられた。


「それは駄目だって、言ったでしょ?」


「挨拶のキスでもー?」


「挨拶のキスでも」


 なんて、秀くんは粛々と華音を諭す。


 前に私が『おやすみのキス』について言った時は、もうちょっと動揺してたと思うんだけど……秀くんも、あの頃から成長してるってことかな?

 それとも……あれは、私が相手だったから……とか?


 んふっ、なんてねっ。

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