01:始まりと終わりを結ぶ点
11年ぶりのこの場所は、季節は違えど変わらず美しいままだった。
緩やかだが次第に一歩一歩が辛く感じる距離の坂道。
木々に囲われ、まるでどこか違う場所に取り残されたような感覚に陥る。
それと同時に訪れる何とも言えない透き通った空気が、俺は一番『神聖』という言葉が当て嵌まると思った。
風を感じる。
だが震えていないのだ。
完璧な『静』は、物理的な動きなど物ともしない。
全て見透かされているかのような、恐怖にも似た空間。
俺は、再来に思わず笑みを浮かべた。
そしてそれは突然終わりを迎える。
そこは、俺が知る中で一番綺麗と思える自然。
寄せてはかえし、満ちて引く。
全てのはじまり。
「きーもちー」
思い切り背伸びをしながら深呼吸をすると、鼻孔を潮風が辿る。
息をするたび、進化している感じだ。
都会で汚れた細胞が歓喜しているのがわかる。
それほど海には命が溢れているのだ。
遥か下で穏やかに揺れる波。
俺みたいな人間一人、簡単に吸い込まれそうな色。
そう、たかが人間一人消えてしまいそうな。
「君だれ」
そんな時だった。
背後には子供。
小学生だろうか、持っていたスケッチブックには『3−1 村井あきら』と書かれている。
突然の他人、しかも女の子の登場に俺は咄嗟に声が出なかった。
「そこ危ないよ。ついでにあきらが予約した場所だから」
どいてよ、と言わんばかりの視線に体は素直に動いた。
女の子、あきらはそれを確かめると、俺がいたところよりもっと先まで歩き座り込んだ。
あきらの爪先から30センチ先はもう空中だ。
体重の問題をはねても、あきらの度胸は俺よりはるかにあるだろう。
あきらはそんな俺の考えなど知るよしもなく、というかさほど興味もなかったのだろう、持っていたスケッチブックを拡げクレヨンで何かを描きはじめた。
もちろん眼前の海原なのだろう、ひたすら青色を擦り減らしている。
時には緑、黄色を交えながら完成へと突っ走る背中を、俺はじっと見つめていた。
「できた」
ほっとしたような声に、俺は思わず同じように息を吐いた。
それに気付いたのか、あきらはまだいたのか、とでも言いたげに視線を投げた。
俺はどうにかここに留まりたかった。
確実な理由はない。
ただ、この出会いの奥深くに眠る真実に触れたかった。
今、この場所で出会った運命の真相を暴きたかったのだ。
不安定で曖昧な、奇妙な扉。
俺は迷いなく手を掛けた。
「田上、田上秀一だよ。あきら」
待ち受ける大きな暗闇に気付かずに。




