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狐さんの恩返し?

「本当、今日は寒いなぁ……」


白い息を吐きながらポツリと呟く。


神社が白銀に染まっているのに驚きながら、カーディガンを羽織り、台所へと向かう。


今日は私が朝食担当で、何を作ろうかなと考えながら歩いていると、ふと視界の端に黒い塊が映る。


ありゃ、これは朝から見ちゃいけないものをみたかな?そう思いながらゆっくりその黒い塊近づく。


ゆっくり、ゆっくり、足音を建てないように慎重に歩いて近づくと狐が寝息を立ててスヤスヤと眠っていた。


なんだ、狐かと安堵して、台所へ向かおうとすると狐が私に向かって話しかける。


「そこの女、ここは葵殿が住んでいる家か?」


狐が話したことに驚くよりも葵を尋ねてくる人がいるということに驚き、狐を見つめながら話しかける。


「そうだよ、狐さんは何のようかな?」


「あぁ、申し遅れた。私は宮月(みやつき)と申す。葵殿から頼み事をされた為私が馳せ参じたということだ」


狐、宮月は狐の格好のまま二本足で立ち上がり上手にお辞儀を

している。


その光景を見て、まるで映画やアニメの中に私が入ってるみたいねと心の中で思いながら、それなら葵の元に送るわねといい、宮月を葵の元へと案内する。


「宮月さんは寒くない?すごく手足冷えそうだけど」


私はまぁ狐だしそれなりには大丈夫なのかな?聞くこと間違えたかな?と思いながら宮月をふと見ると、真っ赤になってる手と足に目がついた。これはだいぶ寒そうね。少し待っててと言い残し、宮月を廊下で待たせて、人形サイズの手袋と靴下と服を持ってきて着せてあげた。


「これであったかいと思うけど、大丈夫?」


「気にかけて頂いてありがたい、こんなに寒くなるとは私も思ってなかった故、軽装で来てしまった」


申し訳なさそうにこちらを見つめる宮月見て私はこの子なら飼ってもいいかもしれないと心の中で思いながら、葵の部屋の前についた。


「おーい、葵!お客さんよ」


私がそう告げると葵は嫌な顔をしながらドアを開けた。


「奏うるせぇよ!でけぇ声出すんじゃねぇ。」


私をキッと睨みつけ、私の足元にいる狐に目をやった。


「ん?宮月か?久しぶりじゃねぇかよ」


「お久しぶりです!葵殿!」


とても嬉しそうなのがわかるくらいにしっぽを振っていた。


「とりあえず、廊下じゃなくて部屋に入ってこい。俺のところに来るってことは何かあったんだろできることなら話ぐらいは聞いてやる。奏、客人にお茶を入れてやってくれ」


そういうと宮月という名の狐は部屋へと入る。私が葵の主人なのにと思いながらお茶を入れるために台所へと歩みを進める。


お茶の準備をしていると仕事終わりの高次さんがふらふらになりながらキッチンにやってきた。


「奏、おはよう。すまないがお茶を用意してくれないかい?とてものどが渇いてねぇ」


「おはようございます、高次さん。もしかしてその感じだとまた修羅場だったんですか?」


私はお茶を用意しながらそう高次さんに問いかける。聞かなくても分かる様子はあるがどっちの仕事なのかわからない。


「奏は本当に私の事をわかってくれる優しい子だねぇ。小説の締め切りのことをすっかり忘れていてねぇ……昨日から徹夜で仕上げたんだよ……」


生気のない顔でにっこりと微笑んでくれているがとてつもなくしんどいのがわかる。


お茶の準備もし終わり、軽く食べれるものを作って高次さんに差し出す。


「はい、どうぞ。軽く食べる用意しときましたから後で食べてくださいね」


「奏、ありがとう。にしてもそのお茶の準備はお客様がいらしゃったということかな?」


高次さんはお茶を一口すすり、お盆に乗っているお茶の用意を指差しながら話しかけてきた。


「そうなんですよ、葵のお友達みたいなのですけど何か葵に話があるようで長くなりそうなのでお茶を入れに来たんですよ」


「葵にお客様か。にしても奏をお茶汲みに使うなんてしつけが足りないようだね」


少し不敵な笑みを浮かべながら高次さんはお茶を飲みほした。


「もしかしたら依頼かもしれませんからあまり意地悪しないでくださいね」


「分かっていますよ、ですが誰が主人なのかはしっかりと教え込まなければいけませんからね。話し込みすぎましたね。お茶が冷えてしまうといけませんし持って行ってあげなさい。私もまだ書かんければなりませんから。こちらは部屋でいただきますね」


高次さんはそういうと私の作った料理を持って立ち上がり、私も葵の元へと歩みを進めました。



「宮月、今日はどうしたんだ?お前が俺の所に来るぐらいなんだからなんかあったんだろ?」


俺は奏がお茶を入れに行ってくれている間に宮月の要件を聞こうと目の前に座った。


俺が目の前に座るのを見て、宮月は話し始めた。


「何を言っているのですか葵殿!葵殿に頼まれたものを持ってきたというのに……」


宮月はどこからともなく袋を取り出し、俺に渡してくる。


その袋からは甘辛い良い匂いが漂ってくる。この匂いはどこか

で……俺はこの匂いを即座に思い出し袋を持ち上げる。


「宮月もしかしてこれは有名ないなり寿司!!あの妖亭狐寿司(ようていきつねずし)のやつか!?そういえばそんなことを俺はお前に頼んでいたな……」


「そうですよ!並ばなきゃ買えないから買ってきてくれと頼んだのは葵殿ではないですか」


宮月はほっぺを膨らまし、プイっとそっぽを向く。

奏が見たらとても愛らしいと喜ぶのだろうなとその姿を横目で見ながら袋を開けて、いなり寿司を口に頬張る。


とてもジューシーな揚げから醤油と砂糖の甘味、そして中からは沢山の具材たちが口の中で踊り幸せな気分になる。


俺の姿を見て宮月はにっこりと笑いかけ話し始めた。


「実はそれだけの為に来たのではなくてですね。ご相談がありまして葵殿なら何か知恵を頂けるかと思い、この度は訪問させて頂いたのですが。そのいなり以外に手土産もなく申し訳ない」


宮月はそういいうと軽く頭を下げる。その姿を見て俺は奏から見るとこんなにも可愛い姿なのかと思いながら幸せな気分をぶち壊しにした宮月に少しイラっとしてしまった。


それに気付いたのか慌てて要件を話し出した。


「話は長くなります。人型での生活も慣れた頃でした。慣れたとは言っても人の習慣にはまだわからないこともあり困り果てていると一人の女性が私に手を差し伸べてくれたのです!その女性は色々とゴミ出しの仕方や電車の乗り方など色々教えてくださいまして……」


宮月はとても目を煌めかせしっぽを振りながら話してくれているがとてつもなくこいつの言うこと聞かなくてもいいんじゃないかと思い始めた時がらりと扉が開きお茶を持ってきた奏が部屋に入ってくる。


奏は宮月の前にお茶と茶菓子を出し、俺の横に座り耳打ちをしてきた。


「なんでそんなに聞きたくもない思い出話を聞かされてるみたいな顔をしてるのよ。依頼じゃないの?」


不機嫌な俺の顔を見てそう思ったのだろうが正解過ぎて何も言えないでいると奏は呆れた顔をこちらに向けてくる。そんな顔で見られても俺は思い出話を聞くほど律儀な奴ではないんだよと思いながら宮月に話しかける。


「取り敢えず、その無駄に長い思い出話はどうでもいいからよ。俺への頼みってなんだ?」


「そんなぁ……そこまで長くないはずなんですけど……」


さっきまでキラキラした目で話していた宮月はしょんぼしたのがすぐにわかるくらいにしっぽは下がり目を涙でいっぱいにしていた。


これまた鬱陶しいパターンになったなぁと思いながら奏が入れてきたお茶を飲み、またいなり寿司へと手を伸ばす。


「分かった、分かったからそのまま話を続けてくれ」


俺はそうぶっきらぼうに答える。


奏がこいつはダメだとでも言いたそうな目で俺を見つめてくる。


そんな目で俺を見んじゃねぇ、元からこういう話は苦手なんだよとキっと奏を睨みつける。


その様子を見て宮月はすみませんと言わんばかりに小さくなっていた。


「こんなくそ狐はほっといて大丈夫だからお話を続けて頂戴?」


奏は宮月に微笑みかけ、宮月はお茶を一口飲んでからゆっくりと話し始めた。


「それからその女性とは仲良くなったのですが、私が少しの間家を留守にしていた間に引っ越してしまっていて誰もその女性の居場所を知っている人がいなくてですね。葵殿ならどうにか人探しが出来ないかと思いまして……」


要件を話し終わると宮月は器用に前足で茶菓子を掴み、口に放り込んだ。


「人探しねぇ……」


いなり寿司をお茶で流し込み、俺はそう呟く。


「無理でしょうか?」


宮月は目を潤ませながら俺の顔を伺ってくる。元から人探しなんざ得意ではない俺は断ろうと口を開きかけたその時横から奏が口を出してきた。


「宮月さんがお困りならお助けいたしましょうか。見つかるかは分かりませんが、くそ狐のお使いをしてくれたみたいだしそれぐらいはやらせてもらうわね。ね?そうでしょ、葵?」


断るなら分かっているわよね?とでも言いたいかのような目で

奏はこちらを見てくる。


これは断れそうにないなと悟った俺は二つ返事で引き受けた。


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