プロローグ
プロローグ
辺りの木々が化粧を施す季節。一人の巫女姿の女性が、箒を持って掃除をしていた。毛並みが白銀でモフモフな一見ぬいぐるみに見えるキツネが木の枝に器用に丸まっている。
「そろそろ、あんたも人型に慣れたらどうよ。こんなの神社に参拝に来た人が見たら腰を抜かすわよ。」
「何を今更。俺のお蔭で参拝客が増えたじゃねぇか。喋る狐がどこかにいて出会うと願いをかなえてくれるってな。」
少し前まではここに参拝者は今よりも少なく、今よりも活気はなかったけど葵のおかげで少しずつ参拝客が来てくれるようになったのだ。
「確かにそうだけど、それより、手伝ってよ。箒使ってやったら、高次さんに怒られないよ。」
葵はこの秋の季節にめんどくさくなったのか箒を手放し、辺りにある落ち葉を全て狐火で焼き払ってしまった。
「俺はあの時めんどうだから狐火を使ったと思ってるだろ奏。本当は、な毎日俺に掃除させてる高次に腹が立ったから、意地悪してやろうと思って、狐火使ったんだよ。そしたら、あの高次の滑稽なか……」
急に葵の声が途切れ、木から黒い影が落ちたと思うと、私の後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「奏、今日も苦労様」
その声の方へ振り向くと、こちらに微笑みかける高次さんに抱きかかえられ、暴れている葵があった。
「離せ!高次!俺が何したっていうんだよ!」
「何って考えたらわかるでしょう?上から奏を見下ろすのは許してやろうと思ったが、前にあなたが起こした、あの事件の真相を話しているのをたまたま聞いたのでね、いじめてほしいのかと思ったのですよ」
どうにかして腕から逃れようと必死になるが、必死になればなるほど葵は身動きがとれないようになっていく。
「高次さん、やめてあげて下さい。一応可哀想です」
「おい!一応ってなんだ!俺はお前の従者だろ?なんで一応なんだよ!」
「あなたなんて、奏にとってその程度ということですよ。」
と、にやりと笑ってから高次さんは、葵を離した。
「にしても、そこまで、人型が嫌なの?」
「どういうことだ?」
「だって、腕から逃れたいなら人型になれば離してもらえるのにそれをしないから、そんなにも人型になるのが嫌なのかと思ったわ」
「あっ」
葵はそんな方法もあったなと感心している顔をしていた。
「やっぱりバカですね……」
高次さんはため息をつきながら、肩を落としていた。