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ゴンド直々レベリングサポート

「いや、な。死肌族ってことは魔法が強いんだったよな? それでマラドンナの奴を倒してほしいんだよ」


 なぜウィルに頼みたかったか。

 それは何も妖精やユニーククエストについて知っているからでも、見た目が幼女だからでもない。

 男も知っている。死肌族は基底種族の中でUNDが最も秀でている種族であることを。

 だからこそウィルに頼んだのだ。

 男の知識は確かで頼むのも道理であっただろう。それがウィルでなければ。


「あー、そういうことね……」


 ちょっと居心地悪そうな顔をしたウィルは「えっとね」と言った後に頭上から体側に向かって腕を振り下ろし、大剣を呼び出す。

 一連の動作に「うおっ」と男が驚く。


「ち、ちんまいの、そんな体で大剣使ってんのかよ!?」


 男の言葉にウィルは「そうだよ~」と上機嫌に答えた。

 男が驚く姿にご満悦のご様子。

 やはりギャップがもたらす驚きというのは素晴らしい。

 うんうんとウィルは頷く。

 一方で男は当てが外れたというように「まじかぁ」と頭をかいていた。


「まさか死肌族で大剣使ってるなんて考えてもなかったぜ。んじゃあマラドンナ倒せねぇか……」

「というか、それなら別にボクじゃなくても他の魔法使いに頼めばいいんじゃないの?」


 当然のことのようにウィルがきく。


「あー、それなんだがなぁ。なんか、ほかのやつらに話に行くと、どいつも面倒くさいって断られてなぁ。世話焼いてくれるちんまいのならって思ったんだが」

「なんでボクがダメ男に捕まった女みたいになってんの……」


 まぁ、マラドンナはとにかく逃げ足が速いし、危機察知能力が高い。遠くからの魔法でも殆どは飛来する音に気付かれ逃げられてしまうのだという。

 それでもたまーにだが、当たる時は当たる。だからといってそんな偶然に頼ってマラドンナを倒すのを手伝ってもよい、なんて考えるプレイヤーは少ないものだ。

 偶然なんて時間がかかること、そりゃあやりたくないものだ。これまたそれがウィルでなければ。

 がっくしとうなだれる男にウィルはにやりと笑みを見せた。


「だけど、逆に運が良かったんじゃない? 頼ったのがボクで」


 無論言葉の意味を理解できなかった男はこてんと首を傾げた。


 ・

 ・

 ・

 ・


 ギャア、と断末魔を響かせ虹をプリズムになったマラドンナの姿に男は一言。


「そんな、あっさりいくもんなのかよ……」

「あっさりいくもんなのよ。わざわざ創造石を使って専用の技にしたんだから」

「にしたってなぁ……」


 男が頭を掻く。


「その技、かなり燃費悪いだろ」

「そりゃあ悪いよ。詳細は内緒だけど」


 男の指摘通り《必中剣》はかなり燃費が悪い。

 MP消費は距離によって変動し、マラドンナに気付かれない距離で100は持って行かれる。そのためMP消費を上げてダメージ量を底上げすることはできず、また、チャージが完了するまで構えを維持しなければならないため、マルチならともかくソロでは殆ど実用性はないといってよい。とはいえ、構えがなければMP消費は倍近くになっていた。必要な行動と割り切るしかない。

 技、もしくは魔法の創造での追記としては技、魔法の創造においてある程度の制限をかけることで消費MPや難度が低下することが最近判明した。

 ウィルがクラエル集合墓地で技を創造した時は見栄やロマンといった点で構えをつけていた。

 しかし、スレの検証班の情報では、技の場合は構えやチャージ時間、使用後のクールタイムといったものを加えることで、魔法の場合は構えや詠唱時間、使用後のクールタイムといったものを加えることで消費MPや難度が低下したと明かしている。

 《必中剣》は遠距離から必中できる斬撃技だ。あれこれと制約をかけなければいけないのは仕方ないともいえるかもしれない。

 ちなみにこの一件で最も得をしたのは今年度になっても右腕の疼きが止まらなかったり、封印された力を封じるために眼帯をつけているような方々であった。

 往々にして長ったらしい詠唱や大仰な構えを好む彼らにとっては制約はデフォルト。まさに想像が創造への力となることへの証明と言えるだろう。

「よくそんなことやるもんだ」と呆れた顔を見せる男にウィルは顔をにやつかせる。


「あ、でも真似したいなら教えてあげよっか」

「しねぇしねぇ。わりにあわねぇよ。創造石がじゃんじゃか余ったらやってみようかとも思うが……」


「というか、教える気、あるか?」という男にウィルは「さぁねぇ」と返す。

 MPポーションを飲みステータスの確認をしてから、ウィルは男にマラドンナの胞子を送る。


「おお、これがレアアイテムの……いやぁ、ちんまいの、恩に着るぜ!」

「はいはい。ってあれ?」


「そういえば、ただ働き?」とウィルは今更ながらに気づいたことを口にする。

 最低2000Jelで売れるレアアイテムをただ働き。

 考えてみると不公平なのではというモヤモヤした感情が芽生えてくる。

 それこそ今更な感情ではあるが。

 しかし、もともと報酬は考えていたのだろう。「安心してくれ。ちゃんと礼は考えてある」と男はどんと胸を叩く。


「ずばり、俺直々のレベリングサポートだ!」


 ビシッ! と指をさして言う男にウィルは「なにそのサービス……」と目を棒にする。


「そのまんまだそのまんま。今日一日、俺がお前につきっきりでレベリングの手伝いをしてやる。ちんまいの、ちんまいの、種族レベルはいくつだ?」

「今は……8だね」

「だったら、今日でカンストさせてやる。どうだ、レアアイテムの礼としちゃあいいもんだろ?」


 ウィンクつきでそうのたまう男にウィルは苦笑する。


「そうだねぇ。でも、アンタも得するっていうのはずるいんじゃない?」


 経験値は等しくパーティに入る。

 つまり、進化間近の男も一緒にレベルカンストを果たすということだ。

 それを指摘すると男は「ガハハ」と笑う。


「そいつはすまねぇ! ま、今の俺じゃできるのがこれくらいしかねぇんだ、許してくれ! 代わりに必ず今日でレベルカンストしてやっからよ!」

「言うねえ。できなかったら?」

「この鎧をちんまいのにやるよ! ま、ちんまいからサイズはあわねぇけどな!」


 まぁ、だが言わんとしていることは分かる。

 それだけ自信があるなら報酬としては確かに良い部類だ。

 レアアイテムひとつでレベルを2つも上げてくれるというのだから。

「りょーかい」とウィルは頷く。


「そこまでいうなら、お願いしようかな。ボクはウィル。よろしくね」

「ゴンドだ! よろしくな、ちんまいの!」


 結局ちんまいの呼びなのか、とウィルがずっこけるとゴンドは「ガハハ」と笑った。


 ・

 ・

 ・

 ・


「岸を変えるぜ」とのゴンドの言葉で砂漠をさらに南下して数十分。

 穏やかな気候であった砂漠が砂を吹雪かせ、砂嵐へと変じ始めている。

 どうやら南下するほどに砂嵐は強くなっていってるようだ。

 身長のせいもあってか早くも目に砂が入り、ゴシゴシと目をこするウィルはゴンドに問いかける。


「ねぇ、どこまでいくの? さすがにこれ以上強くなるとボク無理なんだけど」


 せめてゴーグルでもあればよいのだが。

 ウィルの問いにゴンドは「そろそろだ」と答える。


「エリア的にはとっくに着いてる。今ぁここのエネミーを探してんだが、見当たんねぇなぁ」


 既に砂嵐は身長に関係なくこの場にいるものすべてに等しく吹き荒んでいる。

 しかし、ゴンドは砂嵐に気にした素振りも見せず「どこにいんだかなぁ」と遠くを見渡している。


「というか、なんでアンタは平気なの……うぇ、っぺ」

「んあ? ああ、そりゃあ、俺は獣目族だからだな」


 ゴンドの言葉に「え、獣目族?」と問い返す。


「おう、気づいてなかったのか? ほら、目」


 ウィルの身長に合わせるためにしゃがんだゴンドはその目をウィルに見せる。

 砂嵐で見えにくいが、確かに、ゴンドの目は肉食獣を思わせる金色の目をしている。


「獣目族ってほんとに目だけなんだ。知らなかった」


 王都でも同じような目をしていたプレイヤーを見かけたことがあるが、そういった目のパーツをしているだけかと思っていた。


「ま、設定では獣目族は人間と獣の子供を祖としているからな。血なんて薄れに薄れて今じゃ目だけってことよ」


「なるほどねぇ」とウィルが言葉をこぼす。


「それで、その目と砂嵐適応の関係は?」

「さてな。だが、獣は自然に生きるもんだ。そういった点からある程度なら問題ない、って考えるのが有力説らしいぜ?」

「なにそれずるい……」


 ウィルがぺっぺっ、と口から砂を吐き出しつつ不満を言うとゴンドは「ガハハ」と笑う。


「隠しステータスって扱いなんだろうが、ま、この種族でいるのもあと少しだ。次の種族でもこういった恩恵があるかはわかんねぇよ」


「そっか」とウィルは納得する。次の種族でも前の種族に恩恵があるかは確かに分からないものだ。なら、いまさらどうこう言うのもあれだろう。

 そもそも獣目族にそういったステータスがあったなら、死肌族にだって何かしらの隠れステータスは存在していたかもしれない。

 とはいえ、隠れステータスをしれたところで何を今更、なのだから気にする必要もないだろう。次の種族で気を付ければよい。


「っと、おでましのようだな。いたぜ、エネミー」


 立ち上がったゴンドが遠くを見つめてウィルに声をかける。

「どこ?」とゴンドが指さす方向を見ると砂嵐のなかにうっすらとだが影が見える。

 だが、しかし、その影は。


「……ねぇ、影が異様に大きい気がするんだけど」


 影がこちらに近づいてくる。

 ドン、ドン、という明らかに足音と分かるような規則正しい地鳴りがする。


「ああ、でかいぜ。そりゃあもう。なんせ——」


 やがて、その姿があらわになる。

 筋肉隆々とした橙色の剛体に纏う申し訳程度の布。5メートルはあろうかという巨体は砂嵐をものともしない。

 握られているのは歪な形のこん棒。ウィルたちを睨む目には知性を感じない。

 そして頭から生える二本の角。


「鬼、だからな」


 HPバーの上に表示される【サンドオーガ】という名前。

 ネームドではない、ボスでもない。純粋にそのあたりをうろつくエネミーの一体。

 だからこそ、格が違うとウィルは顔を引きつらせる。

 今のレベル、種族では勝てる相手ではない。

 ちょっとお宅、戦うべき相手が違うんじゃありません? と聞こうと隣に目を向けたウィルは、次の瞬間、嬉々としてサンドオーガに向かって走るゴンドにさらに顔を引きつらせる。


「さぁ、やっちまうぞ!!」

「嘘でしょー!?」


 そう叫び返しつつ、ウィルも大剣を呼び出し走り出す。ゴンドが行ってしまった以上、逃げ出すわけにもいかない。


「おらぁ! 《ヴィーゼンバッシュ》ッ!!」


 振り下ろされた棍棒に合わせるようにゴンドが両手で大剣を振り上げる。

 互いの武器が衝突し、そしてあろうことか棍棒が跳ね返される。しっかりと振り上げたゴンドはそのまま一回転、今度は大剣をサンドオーガの足に振り下ろす。

 不明瞭な呻きを漏らし、サンドオーガが棍棒を振り下ろす。

 それをゴンドは隣に飛ぶことで回避する。

 その隙にウィルはサンドオーガの腕に飛び上がると、そのまま一足に肩まで走り、バットを振る要領でサンドオーガの目を潰す。

 悲痛な叫びをあげたサンドオーガが棍棒を落とし、目を押さえながら後ろに倒れる。

 ウィークポイントだったようだ。


「ちんまいの、いいとこ狙うじゃねぇか!」

「言っとくけど、ボクが大剣使ってるっていっても、STRは察してよね!!」


 《力溜め》をして待機していたゴンドの言葉に、投げ出されたウィルが叫び返す。

 実際、目を潰したというようにそれほどHPは減っていない。


「ああ、それでいい! 火力は俺がやる! ちんまいのは援護してくれ!」

「わかったけど、それ先言って、よね!!」


 ウィルがサンドオーガの足裏を執拗に攻める一方、ゴンドは《跳躍》で宙に飛び上がると、裂帛とした雄たけびを上げながら両手に握りしめた大剣を心臓に突き刺す。

 地響きがしたかのような衝撃。サンドオーガのHPが一気に減少するが、最後の抵抗とばかりにその巨腕が、巨足が滅茶苦茶に振られる。

「ぬお」っとゴンドが大剣にしがみつき、ウィルは向かってくる足を大剣で受け止める。


「ぐっ」


 ガキン、という鈍い音ともにウィルが後方に飛ばされる。

 何度かバウンドしたのちにどうにか姿勢を整えて着地する。

 それだけでHPが6割持って行かれたことにウィルは戦慄する。

 防御してこれだけ喰らうのだ。まともに受けたら全損も考えられる。

 ゴンドは大丈夫かと前を見たウィルは「おぉぉぉおおお!!」という雄たけびとともに剣先を天に向けた男の姿を認める。

 どうやら剣をただ抜くのではなく、振り上げて抜いたようだ。それによってダメージが入り、サンドオーガのHPがゼロになる。

 虹のプリズムとなり砂嵐に飲まれていくサンドオーガを見送りつつウィルはゴンドに近寄る。


「大丈夫か、ちんまいの」

「さっき、一撃もらっちゃった。防御したのに6割っておかしくない?」

「そんなやつれた装備でそれならマシなもんよ。が、ちんまいのは気をつけな。俺なら一撃もろにくらっても耐えるが、ちんまいのじゃイチコロだ」

「いや、そもそも敵の強さが段違いなんだけど。戻った方がいいんじゃないの?」


 先ほどのだって敵のウィークポイントを攻撃できたからこそだ。毎回できるとも限らない。

 一撃でゲームオーバーの可能性を考えてもっと安全なところで狩りをするべきでは、と述べるウィルにゴンドはにやりと笑うと「ログ、みてみな」と言う。

 どういうことだと言われるままにログをみたウィルは固まる。

 Exp:300、という表記。

 サンドオーガを倒したことで得られたのであろう経験値は砂漠狼の約10倍。砂漠狼が一度のエンカウントで大体3体と考えても4倍ほど。

 かかった時間が砂漠狼と変わらないのを考えると、なるほど確かに魅力的な数値だ。


「さっきも言ったが、ちんまいのは援護をしてくれりゃあいい。叩くのは俺の役目だからな」

「……まぁ、なら」


 目を逸らしてウィルが言う。

 別に、決して経験値に引き寄せられたのが恥ずかしいからではない。ないのだ。

「っしゃ、じゃ、次いくか」と大剣を担ぐゴンドに合わせてあたりを見渡せば、いつの間にか砂嵐の中にいくつも影が見える。

 その影の一体に向かって走り出すゴンドの後ろを、ウィルは顔を引きつらせながら走る。

 どうか、死にませんように。

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