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いらっしゃいませ、ご主人様

 バグラが抜けたとはいえ、二人の旅路は随分と楽なものだった。

 元々ウィルが他の2人と比べて高スペックであるというのもあるが、何よりこの森のモンスターはすべてが柔い毛皮に包まれた者ばかりで剣も魔法も十分に効果が出るからだ。

 敵のレベルが若干高いので、ユウリ一人では恐らく無理があったのかもしれないが、そこはウィルが前面カバーを施した。

 この程度ならバグラも問題なかろう。場合によってはドルンバットで手に入れた創造石を使えば戦闘面では苦戦は強いられないはずだ。

 そう判断したからか二人にバグラを心配するような顔はない。

 そしてその胸元には紫に輝くペンダントが付けられている。彼の残してくれた贈り物は今も二人の胸元で光り輝いているのだ。

 ……何か、このような表現だとまるでバグラが故人のように表現できてしまうから不思議だ。

 そんなことを思いつつ、ウィルは前方に見える遠い壁を見つめていた。

 いつしか森は抜け、平原にいる。

 若干小麦色に靡く草々がこのフィールドののどかさを訴えていた。

 障害物も何もなく遠く見渡せるために、ずっと遠くにうっすらと壁が見えるのが分かる。

 それこそが二人の目指す王都の気高き防壁だ。


「ウィルちゃんウィルちゃん!! あれ!!」


 王都の白い壁を指差しながらユウリが興奮気味にウィルに声をかける。

 ウィルは頷き返してその方向へ向かった。

 その際、やはり待てないといった様子でユウリが走りだしたのはご愛嬌だろう。


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 【王都アヴァルス】通称王都。

 この都の役割といえば『全種族の第一拠点』だろう。王都は彼等が故郷を飛び出した際の重要な拠点になる。

 その面積はICOでも随一の面積を誇る。

 はるか先でようやく外壁がみえるほど、というのはなかなかすごいことだ。

 面白いものでこの王都を訪れるプレイヤーは、それこそ田舎の者が東京に来たような反応を示すのだ。

 あれはなに? ここはどこ? そういった言葉が最近の王都の賑やかさの一つだったりする。

 そしてここにも一組、例に漏れずはしゃいだ声を上げている者がいた。


「ねぇ、ウィルちゃん! あの屋台に売ってるのってなにかな!」

「さぁね。正直食べたくない形してるんだけど」


 言わずもがな、ウィルとユウリである。

 本来は明日に着く予定だったというのに、ユウリによる走りこみで大きく短縮されたのは僥倖としていいものか。

 走りこむだけで2時間ほどで到着できるというのは距離的におかしなことだ。恐らくみえている距離と実際の距離は微妙に違うのかもしれない。

 ウィルは王都にやってきてからずっとはしゃいだ様子のユウリに溜息を吐く。


「ユウリ、もう少し落ち着いたら? なんだか田舎者の東京見学に見えてしょうがないんだけど」

「これが落ち着いていられますかッ!! このアスファルトの大通り、西洋建築の建物群、群れなす屋台、そう、私は今、ファンタジー世界にいるッ!!」


「ホラーがないよ―!」と喜ぶところは少しズレていると言うべきか。

 まぁ、ユウリの言いたいことも解る。

 周りのこの活気。空は快晴。聞こえる声は悲鳴や断末魔ではなく歓声や話し声。空に漂う匂いは血の臭いではなく屋台の美味しそうな匂い。

 そして何よりこの人々の多さよ。

 低スペのパソコンなら間違いなく激しいラグを起こすであろう人、人、人。

 あの集落にいた頃はこの世界には三人しかいないのかと錯覚したりもしたが、この人の波を見て、一種の安堵感を覚えてもいた。

 それに周りの露店に売られているポーションの類。INNと立てかけられた看板。

 そういう意味でもウィルは激しい安堵感を覚えていたのだ。


 感慨深い様子で歩いているとチクチクと視線が刺さっているのが解る。

 それとなく辺りを見渡せばかなりのプレイヤーが二人を見ているのだ。

 これにはウィルも眉をひそめるしかない。

 一体何が自分たちの人目を引いているのか。

 ユウリのこのはしゃぎようか? しかしそれなら周りも大体似たようなものだ。

 それなら一体何が?

 実際は二人の容姿が人目を集めていたりする。

 何せ、二人ともカスタマイズを超えるほどに病的な白い肌を持ち、彼女らの瞳にはハイライトが見えないのだ。それでいて片方は違和感を感じるくらいに明るい。

 まぁ、確かにレイプ目の女が明るいというのは違和感しかない。

 現実ならヤク中か何かと思われても仕方がないだろう。

 更には王都でこういった姿をしているプレイヤーが他にいないのだ。もしや世紀末のあの、と噂されている種族かと好奇の視線を浴びせるのも致し方なしか。

 しかし、それに気付かないウィルは首を傾げながらも歩き続ける。


 ただ、視線を集めすぎれば面倒な輩が絡んでくるのもお約束だろう。


「ねぇねぇ、君たち、ちょっといいかな?」


 そう声をかけたのは金髪のチャラ男である。

 髪をオールバックにし、手首やら首にちゃらちゃらとアクセサリをつけている。

 言葉こそ普通だがそれでも顔を引き攣らせるのには十分だ。

 時代錯誤もいいところだと一瞬目眩を感じながらもウィルは答える。


「アンタ、誰?」

「俺はルファーっていうんだ。ねぇ、君たちってもしかしてあの死肌族プレイヤー?」

「あのっていうのが何なのか知らないけど、確かにボクたちは死肌族だね」


 そう言った途端、周りでこそこそと話を盗み聞きしていた野次馬がガヤガヤと声を大きくする。


「うわお! アレってもう殆どプレイヤー数がいなかったって話じゃん。それに回復の手段だってないっていうマゾ種族でしょ? どうやって攻略したのか聞いてもいいかな?」

「却下」

「そうかそうか、じゃあぜひとも――えっ?」


 ノリツッコミでもやりたのか非常に完成されたようにルファーが間の抜けた問いを発した。

 チャラ男のノリに頭痛を覚えつつ、ウィルが言う。


「だから却下って言ってるんだけど。で、話は終わり? それならもう行かせてもらうけど」

「ちょ、ちょっと待った! 何で教えてくれないんだい?」


 随分と馬鹿げた問いに堪らず「はぁ?」と不快そうな声を上げるウィル。


「あのね、何で話す必要があるの?」

「な、なんでってそりゃあそうすれば死肌族の人口も――」

「だったらここで話す必要はないよね? 第一、話したところで何のメリットにもならないし」

「メリットってそれなら――」

「別に話しただけで人口が増えるわけ無いでしょ? あの程度、耐えることが出来なくてこの種族をやってられるわけ無いじゃん」


 完全な言い切り。

 不機嫌そうに答えるウィルに傍らのユウリは不安そうに見つめる。

 ルファーはなにか言い返そうとして言えず、口をパクパクとさせていた。


「で、他には? ないなら行くから」


 それでも何も言えないルファーを見限り、ウィルは突っ立ったままのユウリの手を引いて大通りを進んでいった。

 暫く歩いて、後ろから面倒な輩がついてきていないことを確認すると、ようやくウィルは手を離した。

 そこでようやくユウリは質問をした。


「ウィルちゃん、どうしてあんな不機嫌だったの」


 そう問うと、ウィルは「ああ、やっぱり不機嫌そうだった?」と溜息を吐く。


「……いや、ね。純粋にああいう手合いが苦手なだけ。こう、落としやすそうだからと強引にくるやつ」


「肉食系男子が悪いって訳じゃあないんだけどね」とウィルは呟く。

 というか、実際は男なのだ、ウィルは。現実では別に爽やか系イケメンというわけでもなければおっとり系男子でもないからその手の男から攻められるなんてことは起きたことがない。

 ない、が。


「高校の頃、部活の大人しそうな子がね、ちゃらちゃらした男に絡まれてたのよ。本人はこれくらい普通とか言いながら髪やら手やらを触ってるし。だからいつかその子が悪い男に靡くんじゃないかってひやひやしてたんだ」


 恐らくあの男もそんな感じなのではないだろうか。偏見と独断100%産だが。


「あとあの時代錯誤感とあの口調はなんか頭痛くならない?」


 そして私情を吐露する。

 ユウリとしては「あはは……」と乾いた笑みを見せることしか出来なかった。

 ただ、それはウィル自身気づいたようで「まぁ、あんなチャラ男のことはどうでもいいよ」と事もなげに言うと「じゃあ折角だし何処かでお茶でもする?」と早くも話題を切り替える。

 なんであの人はつっかかってきのだろうか、という疑問はあったが、ナンパだったのだろうと納得し、ユウリとしてもこの話題を継続するメリットが見当たらないどころかデメリットしかなさそうだと思ったため、直ぐに話題に食いついた。


「そうだね。でも、何処に入る?」


 辺りを見渡せばそこには幾つもの喫茶店の数。

 プレイヤーの呼び込み等がある事からあれらはプレイヤー経営の喫茶店なのだろう。


「まぁ、そこは適当にーー」

「それなら是非とも当店へ!!」


 どれにしようかな神様の言う通り、とでも歌って決めようとしたウィルは突然背後から聞こえるユウリ並に明るい声にギョッとする。

 背後を見ればそこにはメイド服を着た、首あたりで揃えられた桃色の髪を持つ少女がいた。


「……誰?」


 突然のメイド服に驚きつつも尋ねると少女は非常にハキハキした声で答えた。


「はい! 私はギルド《侍女亭》のナナハといいます! お休み、癒し、メイドを御所望の方々は是非とも我が店にお越し下さいませ!!」

「へ、へぇ……メイド、ねぇ……」


 非常に熱烈な勧誘であるが、ウィルとしては少々乗り気にならない。

 まぁ、それもそのはず。

 ウィルはメイド喫茶といったものにいったことがないのだ。

 知っているのは存在と風聞のみ。

 元々秋葉原やら銀座やらには大した用はなく、行ったことも数回なのでこう、なんというか、そういった場所はどうしても体が拒んでしまうのだ。

 偏見はいけないことだと分かっているのだが……

 その為、ウィルとしてはやんわりと断ってしまいたかったのだが、


「ウィルちゃん、メイド喫茶だって!! 行ってみようよ!!」


 残念、ここにはもう一人、元気な冒険家がいた。

 ユウリが言ってしまった為にもう、却下と言うことが出来なく、結局「あ、うん……」と流されるままになった。

 そしてそれを聞いたナナハはすかさず二人を案内する。


「じゃあ、こっちです!!」


 行き着いた店は現実でもありそうな西洋建築。

 中には既にかなりの人がいた。

 そのどれもが美男ばかりなのだが、まぁ、中身は詮索しないでおくのが最良だろう。

 ただ、雰囲気は完全にあれだ。どんな雰囲気なのかも知れないので適当な表現だが。

 仮令美男美女が屯する店といえど空気を悟ったウィルは顔を引き攣らせ、ユウリは興味深そうにキョロキョロと辺りを見渡しながら席に着く。

 少し店員の様子を見てみるとどうやら全員がプレイヤーらしい。


「そう言えば、ゲームの世界に入ってまで働くというのも不思議だよね」

「確かにそうかも。でも、お金集めって可能性もあるよ?」


 なんでだろう、と二人して推測をして談話しているとそこに現れたのはメニュー表を抱えたナナハ。


「答えはメイド喫茶をやってみたかったから、ですよ」


「ご注文はこちらからお願いしますねー」と置かれたメニュー表をちらっと見てからウィルは会話に戻る。


「やってみたかったって、それなら現実でやればよかったんじゃないの?」

「いやー、それは無理ですよー。リアルじゃ恥ずかしいですし、そもそももういい歳ですしね……」

「ああ……成程ね」

「それにメイド服って似合わないですし」


「ゲームならこの通りなんですけど」とフリフリのメイド服をひらひらとさせて一回転してみせるナナハ。

 やはりアバターはうら若き少女だからか、非常にメイド姿が映える。ハリのある柔肌も、整った顔立ちも、どちらもあるからこそだろう。


「お二人はどちらかと言うと何か人に奉仕するってよりは、奉仕されるって感じですよね」

「いや、ユウリは絶対人の上に立てない気がする……」


 主に性格の都合上。


「えー。そんなこと言ったらウィルちゃんなんて介護されちゃうんじゃない?」

「へぇ? ボクは介護を受けるほど傲慢でも無能でもないんだけどねぇ?」


 にっこりと、背後からゴゴゴゴ、とでも形容できそうな黒い笑みに「あ、わ、私、アップルパイとコーヒーで!」と注文することで逃れる。


「はい! ウィルちゃんはどうしますか?」


 注文を聞かれ、黒い笑みを止めたウィルは改めてメニュー表を覗き、それとなく良さそうなものを選ぶ。


「じゃあクッキーと紅茶のストレートで」

「はーい、ご注文承りました―! すぐにできるのでちょっとお待ち下さいね―!」


 そう言ってナナハは焼け付け刃のようなカーテシーを見せてからクルッと回って店の奥に引っ込んだ。

 そして確かに三分もしない内にトレイに注文の品を乗せ戻ってくる。


「おまちどーさまーです!」


 そこでウィルに問題が発生した。

 ある意味重大な、とでも言っていい問題だ。

 リアルでは絶対にならない幼女だからこその欠点。


「そう言えばメニュー表の時から感じてたけどテーブルが、高い……」


 この店では椅子が若干低いため、ウィルが座るとテーブルの縁が目前にあるような状態になってしまうのだ。

 これには動揺せざるを得ない。

 そして何よりその言葉に反応したのがユウリではなく、


「あ、なら私が椅子になります!」

「……は?」


 隣のなんちゃってメイドだった。

 言葉の真意が理解出来ぬままに「店長に許可貰ってきますー!」と走り去って行くナナハの後ろ姿を見送ると、今度はこちらに走り寄ってくる姿を出迎えることになった。

 そして、ウィルが何かを問うまでもなくナナハはウィルの小さな体を抱き寄せ、ナナハが座った後のその膝にウィルを乗せた。


「はい! これでピッタシです!」

「いや、ピッタシってなにやってんの!?」


 突然のメイドの膝椅子に大きく動揺し、もぞもぞと動いて逃れようとするのだがメイド、それを逃がさない。

 ガシッ、とウィルの体をホールドロックし、その顔には小動物を抱っこしているような幸せそうな顔が広がっていた。


「ほら、動いたらテーブルのものが落ちますよー。それと安心してください! ちゃんと店長から膝椅子の許可は貰いましたから!」

「何許可してんの店長!?」


 堪らずウィルは頭を押さえる。

 そしてそうだともう一人の存在に助けを求めようとし、


「ナナハちゃん、それ私もやりたい!」

「やらせるかッ!」

「そうですよ! この子は私が先に抱っこしました!」

「そういう意味じゃないから!!」


 ギャースと一際五月蝿いその席に他の席の客が好奇の視線を向ける。

 そしてメイドが幼女に膝椅子をしているところを目にするとすっ、とスクリーンショットを収めるのだった。

《Result》

エリスマトカゲ:Exp8*23→大剣,2Jel*23=46Jel

ゴブリン:Exp6*19→大剣,1Jel*19=19Jel

ホイロート:Exp5*15→大剣,3Jel*15=45Jel


大剣 Lv9

呪術書 Lv3

筋力上昇 Lv5

効率化 Lv5

大剣術 Lv5

斬撃上昇 Lv5

先見の明 Lv2

精神抑制 Lv3

鑑定 Lv1

暗視 Lv3

抗力 Lv3


大剣Exp:7838+184+114+75=8211

呪術書 Exp:319

大剣術 Exp:2791+57=2848

筋力上昇 Exp:2791+57=2848

斬撃上昇 Exp:2791+57=2848

効率化 Exp:1213

暗視 Exp:21

抗力 Exp:18

先見の明 Exp:13

精神抑制 Exp:16

鑑定 Exp:5

Jel:7420+46+19+45=7530


《Item》

ポーション*27

斑色の皮質*20

永遠の欠片*1

哀憐の布*3

コウモリの羽*3

コウモリの爪*3

創造石*1

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