しにたみ住人と同居人
住人はにーしたという名前をしている。
正しくは二下と書いてにしたと読む。今までほとんどの多くを西田と書き間違われて生きてきた。にーしたは自分の名前が嫌いだ。祖先も嫌いだし両親も一族も二下姓を名乗り増殖をやめようとしない全てが嫌いだ。
にーしたの朝は常に陰鬱から始まる。元来の寝起きの悪さに寝付きも悪く最近は夜間に目が覚めるようになった。低血糖、低血圧、冷え性、逆流性食道炎、ドライマウス、睡眠時の姿勢の悪さ。どれを取っても快眠できる要素はひとつとして無かった。
にーしたの部屋からガタゴトと音がしてから数十分経ってようやくリビングに降りてくる。にーしたはリビングテーブルの決まって手前側に座る。
朝食の用意は全てリトが担当している。ルームシェアを始めた当初、朝は一杯の牛乳からと用意すれば冷たい飲み物に胃がやられた。ならば熱い飲み物をと用意すれば極度の猫舌のため膨大な時間がかかった。終始そんな調子であるから、にーしたは朝食をまともに完食できた試しが無い。そもそもリトがくる以前のにーしたの生活に朝食は存在すらしていなかった。
今朝のにーしたはチーズとトマトとバジルチキンのホットサンドをチビチビと齧っている。リトはまるで小鳥が餌を啄んでいるようだと思う。付け合わせに用意したコンソメスープはきっと完飲できないだろう。さっき出来上がったばかりだから。
にーしたは何ひとつとして文句を言わない。リトは対面式キッチンで洗い物をしながらそれを時折横目で眺めている。