社長令嬢としてのプライド②
「…愛子さんも、正直におっしゃったら良いではありませんか。私のように一回りも上のおじさんに思われても気持ち悪い、と。」
…え?
つい久司さんの目を見る。傷ついたように自嘲気味に笑っていた。
わ、私が悪いの?久司さんにこんな顔をさせているのは私?
「そんなことは言っておりません。」
突き放すように言う。
だって、これも嘘かもしれない。バカにされたくない。傷つきたくない。
あぁ、結婚して間もない時も何故かこんな話になった。久司さんと疎遠になったのはそれからだ。
もう、どうしたらいいか分からない。
私のプライドを守るには久司さんが折れるしか無い。
私からは何もしたことがない。
悲しいけど…仕方ない。
「本日はありがとうございました。お忙しい中、お時間を拝借致しまして。お料理、冷めてしまいましたね。申し訳ありません。別の物をシェフに用意させますので、私はこれで失礼致します。」
早口でまくし立てるように言う…
…私は自分のプライドを守ることしか出来ない。
「…いえ、私はこちらを。別の物は結構でございます。こちらこそ、愛子さんのお時間を拝借致しまして申し訳ありませんでした。ありがとうございました…。」
その言葉を背に私はダイニングルームから出ていった。
…久司さんが私に謝る。それで、何とか自分のプライドを守れた事に安堵し…
そして、久司さんに謝らせてしまったという罪悪感で胸が潰れそうになる…
✽✽✽
「お嬢様!!」
次の日の朝、何事もなかったかのように朝の挨拶を終え、自室にこもっていた所、キヨさんが血相を変えて入って来た。
「どうしたのよ。」
「大旦那様が…お倒れになったとの事でございます。」
―――!!!
「どういう事!?」
お父様が!?どうして!?
「ご病気で余命幾ばくもなかったそうにございます…。」
キヨさんが泣き崩れながら言う。
何、それ。どうして娘の私が知らないの!?
「お父様は今どちらに?」
薄情な娘ね。…涙すら出ない。
――コンコン。
「お父様。失礼致します。」
連れられてきた病室に冷静に声をかけて入る。
「…愛子か。」
「はい。お父様、ご病気でしたとは知りませんでした。余命宣告を受けられていたそうですね。」
「…。」
「どうして、娘の私がその事実を知らされていないのですか?」
「…聞いて…どうしたかったんだ?」
「…そうですね。どうにも出来ないのですから聞かなくて良かったのでしょうね。」
父と娘なのに私達は分かり合えない。
「久司くんの次は結仁に会社を継ぐよう遺言は書いてある。」
お父様の一番はいつだって会社だ。
「お父様…。私が男に産まれなかったばっかりにお父様には多大な迷惑をかけて参りました。申し訳ありません。」
「…何を言ってるんだ。」
「お母様はずっとご自分を責めてらっしゃいました。跡取りを産めなかったこと。一人しか産めなかったこと。その心労で早くに亡くなられたのですから…」
私が男に産まれなかったばっかりに私がお母様を病にさせた。
「…あいつはそんな事を思っていたのか?」
「はい…」
「そうか…。」