社長令嬢としてのプライド①
「「いただきます。」」
約束の家族の晩御飯。
何とかマシなハンバーグを作る事が出来た。(かなりシェフとキヨさんの手を借りたけれど)
「愛子さん、ありがとうございます。とても美味しいです。」
久司さんはリップサービスが上手だ。
「そのようにおっしゃって頂いてもお世辞にしか聞こえません。」
シェフが作った料理を普段は食べている。私が作った物など比べ物になるはずが無い。
「…わざわざ、お時間割いて作って頂けて…とても嬉しいです。」
優しい。嬉しい。
「…席を外しましょうか?」
黙っていた結ちゃんが急にそんな事を言う。
「えっ!?ど、どうして!?」
「お邪魔かと…」
「な、何を言ってるの!そんなわけないじゃない!大体私達は結ちゃんがいるから繋がってる夫婦よ!?」
あ。しまった。子供の前でなんてことを…。
「…そうですね。愛子さんに取ってこの結婚は会長からの命令に過ぎない。」
…え?
「それは…私のセリフです。」
久司さんには長年思っていた女性がいた。それなのに、社長になるために仕方なく私と結婚した。
それなのに…。
「じゃあ、私はこれで。」
結ちゃんが席を外す。この空気の読みよう本当に5歳?
……。
「愛子さん、私は結婚する時に言いましたよね。…ずっと――、愛子さんを思っていたと。」
「私の社長の椅子をでしょう?私は知っております。他に好いた方がおいでだったと。」
そう言われて、信じて舞い上がってた日々がよみがえる。
恥ずかしさでいっぱいになる。
今まで、社長令嬢としてチヤホヤされて生きてきた。
そんな私はものすごくプライドが高い。
私が久司さんを好きだとしても、それを私からは言えない。
他に思っている女性がいた。なのに私と結婚した。
社長になるために。
恋心が傷ついた以上に私はプライドが傷ついたんだ。
一人で浮かれていた。
一人だけが好きだった。
私の独りよがりだと分かったとき、これまで味わったことのない感情が溢れてきた。
久司さんを好きだと思う気持ちすらも、別の気持ちで燃え上がった。
苦しい。…苦しかった。
あんなに好きで、結婚出来て…あんなに幸せだったのに…
私の思いは憎しみに変わって行った。
好きでも無い私と一緒にいる久司さんが憎い。
私の気持ちを弄んで社長に成り上がった久司さんが憎い。
憎くて憎くて…距離を取った。
結婚は覆せない。お父様の命令ですから。
憎くて…久司さんが憎くて…それでも…好きで。
それがまた悔しくて…疎遠になった。
それなのに…今になって。
〝愛子さんを思ってた〟
嬉しさと、それ以上のプライドがある。
裏で笑われているかもしれない。騙されたくない。
もし、騙されて裏で笑われているとしたら、何もない私が唯一守っている社長令嬢というブランドが地に落ちる。
私は…小さい。
だから、一生懸命〝夫の足手まといにならない物分りの良い妻〟を演じてきた。