子連れの初デートと次の約束
「準備出来ましたか?」
「お待たせ致しました、久司さん。」
ちょっとウキウキ。緊張と興奮と。昨日は遠足の前の日のような気分だった。
久司さんの運転する車に乗り込もうとして気づく。
(ど、どこに座ればいいのかしら?)
結婚前、久司さんが父の部下だった時、学校まで送迎して下さった事もある。
そのときは勿論私は後部座席で。
だけど、夫婦。これは助手席に座るべきかしら。
…出来れば助手席に座ってみたい。
憧れのデート
憧れのドライブデート…
(ど、どうしたら!!)
「愛子さんと結仁が後ろに乗りますか?」
「………はい。」
恥ずかしい。そうだった。私は主役じゃない。今日は同伴者。目的を忘れる所だった。
「結ちゃん、お母さんと一緒に後ろに乗ろう。」
結ちゃんを即して一緒に乗り込む。
(うーん。何にも喋らない…)
「結ちゃん!今日はお父さんと一緒だね!三人でお出かけするの、初めてだね!」
強制的に話してもらおうと、力強く声をかける。
「…はい。」
しゃ、喋ったー!!
「…本日は同席致しまして申し訳ありません。」
(え?)
「お二人の仲に水をさしまして…」
え、え、え。結ちゃん何を言ってるのよ。…むしろ、私が!
「家族になったんだから。三人で出かけるのは極自然な事だよ。」
久司さん…。
「そうよ。結ちゃん。」
「…ありがとうございます。」
✽✽✽
あれから、自分の意見を一切言わない結ちゃんに痺れを切らして、私が必要であろうものを買って帰った。
今は久司さんと結ちゃん報告会の最中――
「今、手がけている事業があと少しで落ち着きます。前より早く帰って来れるようになりますので、夕飯を三人で召し上がりませんか?」
久司さんからそんな提案を受ける。
「それは良いご提案ですね。きっと結ちゃんも喜ぶ事だと思います。」
「普段は結仁とお二人で夕飯をとっておられるのですか?」
「はい。久司さんもご一緒なら久司さんの召し上がりたい物を準備させましょう。何かご希望ございますか?」
久司さんにとっては久しぶりの家での夕飯になる。
「はい。…リクエストしても良いでしょうか?」
「ええ。もちろんでございます。」
久司さんは普段ご自分の意見を言わない。父の部下としての時間が長かったせいかもしれないが、そんな風に問われて驚く。
「…ハンバーグを。」
「ハンバーグ?」
「愛子さんがお作りになったハンバーグを私も食べてみたいです。」
!!!
今…なんて……
「た、食べられる代物ではございませんよ…」
びっくりした。思ってもいないリクエストに。
「愛子さんが嫌でしたら無理には…」
久司さんの意見を聞いたのは初めてかもしれない。好きな人の意見を聞いてあげたい。叶えてあげたい。
「…無理ではありません。れ、練習しておきます…。」
それが、私のハンバーグなら…なおさら。
「ありがとうございます。楽しみにしておきます。」
真っ赤になっているとそんな風に言われ、チラと久司さんを見る。
笑っている。
…胸がドキドキする。久司さんと少し、以前より打ち解けたと思う。嬉しい。
「こちらこそ…」
しどろもどろに答えてしまった。
「くれぐれも、お怪我だけはなされませんよう。」
とても嬉しそうに笑う久司さんを見た。錯覚する。
少し、ほんの少しでも、私に好意を持ってくれているように見えて…
胸が苦しい。