初デートの約束
次の日の夜。
久司さんと夜の挨拶を交わし、結ちゃん報告会をする。
すっかり馴染んだ日常となった。
「希望はないの一点張りで…」
結ちゃんにどこに行きたいか聞いたら、〝ありません〟しか言わなかった。
「そうですか。」
「私は子供が喜びそうな場所が全く思いつきません。」
母親になったのに。
「…私の弟は、遊園地が大好きでしたが…」
「遊園地!それは良いお考えですね!」
兄弟がいる久司さんの話は勉強になる。
「…しかし、妹は乗り物が恐いと嫌っておりました。」
「まぁ…」
意見が真っ二つに割れてしまった。
「…。久司さんはやはり大人でいらっしゃいますね。私は何一つ思い浮かばないばかりか、更に2つの視点を持って考える事など到底出来ませんでした。」
一人っ子だからといって、思い浮かばないということはないだろう。
私は視野も狭く閉ざされた世界で生きてきた事をこういう時に垣間見る。
「…愛子さんは?」
突如、話が切り替わる。
「今回は愛子さんもご同行されるのですから。愛子さんの行きたい場所に行きましょう。」
「わ、私の行きたい所でございますか?」
思いもよらない提案を受け、驚く。
(行きたい所…。世の女性はどう言うのかしら。)
育って来た環境が違う久司さんに変に思われないような…
それが私には思い浮かばない。
「…特に無いようでしたら、買い物にでも行きましょうか。結仁の身の回りの物を揃えてあげましょう。」
黙り込んでいたら、そんな提案を受ける。
(…やっぱり大人だな。)
(きっと、これまでも久司さんは素敵な女性と沢山デートをしてきたに違いない。だから、人の意見を聞くことも出来る。提案も出来る。)
「そうですね。宜しくお願いします。」
(その女性達が妬ましい。)
大好きな人と政略結婚と言えど、結ばれた。
私達は夫婦だ。
だけど、久司さんを社会的に拘束することは出来ても、心までは出来ない。
――それが悲しい。
「はい。楽しみにしております。」
――!
久司さんはたまに思いもよらないことを口にする。
それがリップサービスであることは分かってるのに…
「はい。私も…私も楽しみにしております。」
嬉しくて仕方ない。つい、顔がニヤける。
久司さんの方を見ると、
久司さんもとても嬉しそうに、笑っていた――。