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夫婦より家族としてなら…



「手はどうされたんですか?」


いつものように夜の夫婦の挨拶を済ませた所、久司さんから声をかけられる。


「あ、お目汚しを。お許し下さい。」


ハンバーグを作った時に負傷した手にはいたる所に絆創膏が貼られている。


(久司さんに変な所を見せてしまった…)


「…心配しているのです。」


思いもよらないことを言われ、驚く。


「あ、ありがとうございます。その…今日、ハンバーグを作りましたので…」


(ハンバーグくらいでこの有様なんて。)


一般のご家庭で育った久司さんは到底理解出来ない事だろう…〝料理一つも出来ない子供〟こう思われたに違いない。住んで来た世界が違う。突きつけられた気分だ。


「なんでまた料理を?」


「子供が好きだろうと…」


こんなに会話が続いた事がないため、緊張する。これは夫婦の会話というやつだろうか。


「…そうですか。」


なんか、元気がないような…。


(久司さんはお仕事でお疲れなのだわ。)


私に時間を割かせてはいけないのに――










あれから一ヶ月が経った。


この一ヶ月で私達夫婦には変化したことがある。


夫婦の会話は朝と夜の挨拶だけ。

たったそれだけだったのに――…


「今日、結仁はどうしていましたか?」


この言葉が加わる様になった。

…久司さんと会話がある。この事実が私をときめかせる。


―――どうしようもないほど。




「変わりなく…」


そう、変わらない。時折お父様が来られて勉強の成果を見て、また新しい勉強。


部屋にこもりきりで、むりやり呼ばないと出てこない。


子供らしい事をさせてあげたい…



「…今度、休みが取れますので。」


「はい?」


「結仁を連れて出かけようと思います。」


「!それは良いお考えですね!」


私は屋敷から出ることは滅多にない。〝出かける〟という概念がなかったから思い浮かばなかった。


「結ちゃんには私から聞いておきますね。」







「外出…でございますか…」


「うん!お父さんがお休みだって!たまにはお外に行きましょう!」


男の子は男の子同士、父と子なら打ち解けれるかもしれない。


「…それは旦那様と奥様と私、ということですか?」


「…え!?」


私も入るの!?


「私は…誘われてないし…」


あ、でも普段、結ちゃんと久司さんが一緒にいることはない。いきなり二人きりになっても…


「お母さん、行ったほうがいい?」


「いえ、そういうことでは…」


「そっか…そうよね!結ちゃん、大丈夫よ。心配しないで。」


久司さんと一緒に外出した事なんてない。

初めてのデート(子連れ)に心を踊らせている自分がいる。


きっと、二人だったら外出する事はない。理由がないから。

だけど、結ちゃんが一緒なら、久司さんも義務として私が一緒でも構わないかもしれない。

夫婦にはなれないかもしれない。だけど、家族としてなら…





「おかえりなさいませ。久司さん。」


夫婦の夜の挨拶。いつもと変わらない言葉なのに、いつもと違う。私の気持ちが。もしかしたら、ずっと憧れていた〝デート〟というものが出来るかもしれない。


「結ちゃんに聞いてみたんですけれども、よく思えば久司さんと結ちゃんは二人きりで会った事もありませんから。いつも誰よりも長い時間を過ごしている私が引率にご同行させて頂きたいのです。構いませんか?」


言っていて緊張した。これは〝私も行きたい〟と主張しているように思われないだろうか。


「…。構いませんよ。」


今の〝間〟はやはり、私の思惑がバレたのかしら…


「どこか…希望はありますか?」


「え?」


久司さんは気にせず続ける。


「結仁と愛子さんの行きたい場所はございますか?」


「あ!結ちゃんの行きたい所…申し訳ありません。聞いておりません…」


「いえ、頼んでいた訳でもありませんから。」


「明日、聞いておきますね…」



久しぶりに名前を呼ばれ、高鳴る胸を抑えられない。

結婚する前は〝お嬢様〟だったそれが、結婚してから〝愛子さん〟に変わった。


それはまだ私が結婚に心をときめかしていた時に頼んだ事で。

今となっては、まだそう呼んでくれていることに動揺が隠せない。


〝愛子さん〟


名前を呼ばれるだけで、どうしようもなく切ない…

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