変わらない朝
「いっていらっしゃいませ。久司さん。」
「…。行ってまいります。」
そしてまた変わらない朝がやって来た。朝の妻の仕事を終える。
久司さんは私の顔をチラリと見て、何事もなく会社へ行かれた。
「結仁ちゃん。おはよう。よく眠れた?」
こちらも、何事もなかったように声をかける。
夫との仲が上手くいかず子供に依存する母親。今の私はまさしくこれだろう。
だけど、結仁ちゃんがいてよかった。余計な事を考えずに住む。
「…。」
結仁ちゃんは何も喋らず、会釈をする。
「はぁ。」
盛大なため息。あれから結仁ちゃんはお父様から言われているという勉強のため、また部屋にこもりきりだ。
5歳で親元を離れてさぞ寂しい思いをしているだろうに泣き言一つ言わない。…私を母とは思えないんだろう。
なんとかして喜ばせたい。
子供の好きなもの…喜ぶもの…。
「そうだわ!!」
思いついて、キヨさんに提案する。
「お嬢様が!?無理でございます!」
「大丈夫よ。出来るわ。」
キヨさんに止められたけど、私は強引に実行に移す。
食事よ!子供は!お子様ランチ!つまりハンバーグ!!
家庭科の教科書を探してハンバーグのページを広げる。
いざチャレンジよ!!
ザクッ!
「ちょっと!玉ねぎってどうしてこんなに涙が出るのよ!」玉ねぎに文句を言う。
スコン!
「いったーい!!」指を切る。
ジュッ!
「あっつーい!!」火傷をする。
「お嬢様、おやめください。いきなりハンバーグなんて。物事には順序がございます。」
キヨさんが心配して声をかける。
「もう、キヨさんは心配しすぎよ!この教科書通りに作れば出来るんだから!」
「…。」
キヨさんは黙って見守る。
「…。出来たわ。」
少々、私が見たことのあるハンバーグよりも黒いけれど、それはきっと黒毛和牛を使ったからだわ!あ、黒豚も混ぜたし!
「…お嬢様、本当に出来たとお思いですか?」
キヨさんがそんな事を尋ねる。
「ええ。これで結ちゃんに喜んでもらえるわ!」
あ、結仁ちゃんより、結ちゃんの方が言いやすい。
今度から結ちゃんにしよーっと。
結ちゃん喜んでくれるかしら?
さぁて、出来栄えはいかに!!(笑)
答えは〝お兄ちゃんのこれまで〟の〝思い出のハンバーグ〟にてヽ(*´∀`)ノ