愛子さんの本心
冷静に推察、ね。
大人が冷静に推察…
この状況を。
愛子さんに抱きしめらられて、離して貰えない。
だけど、これは会長が亡くなったから泣きたいからで、結仁に断られたから仕方なく俺で、でも丸太でも無いわけで…
「私の都合よく解釈しても宜しいでしょうか?」
俺の能天気な脳みそはやはり都合良く考えてしまう。
ギュッと抱きしめる愛子さんに偽りは無いと信じたい。
愛子さんのドキドキとした速い鼓動が真実だと信じたい。
「私にこうされるのは嫌ではありませんか?」
俺も強く抱きしめ返す。
「…。」
振りほどかれない。
「…無言は肯定と受け取りますよ?」
「…。」
…どうしたものか。
「少し、質問させてください。私は人の心を読むなど、そのような能力は持ち合わせておりませんので。…無言は肯定。即ち〝はい〟で、違うのでしたらおっしゃって下さい。」
「…。」
「今のは〝はい〟で宜しいですね?」
「…。」
…少なくとも、嫌われてはいないということだろうか?
「…私はこの家から出ていかなくても良いですか?」
「…。」
「離婚はしなくても良いですか?」
「…。」
「愛子さんの…夫のままで良いですか?」
「…。」
「愛子さんのお側にいても良いですか?」
「…。」
答えない。肯定?それとも無視?
「…愛子さんは私の事が…好きですか?」
「…!!」
分からなくて一か八か、言ってみた。
驚いた愛子さんが俺の顔を見る。
(真っ赤…)
間違いない。嘘でもない。
きっと…
きっと……
愛子さんも俺のことが好きだ。
「否定しなくて良いですか?無言は肯定ですよ。私は自分の都合よく解釈しますから。」
どうしよう、顔がニヤける。
「…。」
否定されない。
この、真っ赤なりんごの様な顔をした愛子さんが本心だ。
ずっと、ずっと知りたかった…愛子さんの本当の気持ちだ。
「私は、愛子さんの事が好きです。ずっとお慕い申し上げておりました。」
目を見て伝える。伝わって欲しい。届いて欲しい。
「愛子さんも同じ気持ちだと思っても良いですか?」
「…。」コクン。
愛子さんが頷く。
今日は不謹慎だけど…、最高の一日になった…
「ありがとうございます。質問は以上です。」
顔は見えなくなってしまったけど、真っ赤に、真っ赤に染まった愛子さんの耳が見える。
かわいい。愛子さんはこんなにもかわいい人だった。
「…愛子さんは、とてもかわいらしい女性ですね。」
正直に伝える。いつも乱れない愛子さんが顔を赤くしている。かわいいと思う。
すると愛子さんが勢いよく顔を上げて俺の顔を見る。
「バッ、バカにしてらっしゃいますね!?」
は?なんで?
「?なんでそうなるのですか?」
「〝かわいい〟など、小バカにした言い方です!!」
…。
そうだったのか。愛子さんはかわいいは嬉しくないのか。
また怒らせてしまった。だけど嬉しい。愛子さんの照れて怒ってる顔も見れた。
今日は愛子さんの色んな顔が見れる。結婚して、初めてだ。
やっぱり…かわいい。