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仮面


「…お父様が亡くなって、葬儀が終わったばかりで離婚ですか?」


(声をかけられた!!)

俺は足を止めて続きを期待する。


「お父様の命令で結婚したのはそちらだって同じ事。それなのに、私に恩着せがましく言うのはやめて頂けませんか?」


…俺はやっぱり愚かだ。

愛子さんは怒っているんだ。俺に…


「久司さんの方こそ、お父様の財産目当てだったのではありませんか。財産を貰って、トンズラですか?」


好きだった人と結婚した。好かれてない事が分かった。好かれようと努力した。嫌われたくないと離れる決意をした。


それなのに



まさか…ここまで嫌われていたとは…



「…遺産は放棄致します。社長は今すぐ結仁に、とは出来ませんので、それまではご留意頂きたいと思います。」


子供が社長に就任する訳にはいかない。だからせめて、社長業は頑張って挽回したい。会社にとってはいい人だったと。俺を社長にして良かったと思われたい。


「結ちゃんはどうしたら良いですか?」


あ。

そうだった…。愛子さんを解放することに重きをおいていた。


「…三井の子ですから。」


「私一人で養育しろと?」


…喜ぶと思ったのに。怒っている。また、怒らせた。



「…愛子さんはどうしたいですか?」


もう、〝お父様〟はいない。愛子さんが自分の意見を言ってもいい。



…中々答えない。いきなり自分の明確な意志を伝えるのは難しいか…


「…質問を変えます。愛子さんはどうしたらいいと思いますか?」


結仁の事を思った意見なら聞けるだろう。



…まだ答えない。俺との会話が嫌なのか。


「結仁の養育が難しいようでしたら、私が一緒に連れて出ます。」


「こ、困ります!」


…ですよね。結仁はいなくなると、困るんですよね。


「最後なので、年甲斐も無く言いますが、結仁が羨ましいです。」


つい、これまで溜め込んで来たものが溢れだす。


「会長に期待され、愛子さんから思われ…羨ましいです…」


一度言い出したら止まらない。


「結仁は存在するだけで、愛子さんに気にかけて貰って、お料理もされた事のない愛子さんを動かした…初めての料理を結仁のためには作れたのですから…」


こんな…幼稚な嫉妬心を剥き出しにして…


「結仁は喋らなくても、愛子さんに話しかけてもらえて羨ましいです。結仁は出ていくと困ると言われて羨ましいです。」


これまで頑張って来た愛子さんの理想の落ち着いた大人の男性が台無しだ。


「…こんなにも子供が駄々を捏ねるようなことを言ってしまい、恥ずかしさでいっぱいなので、もう愛子さんには顔向け出来ません。」


「ええ!?」


「…どこの情報を鵜呑みにされたかは分かりませんが、私に他に思う女性など、おりません。」


愛子さんの真意は分からないが、とりあえず後悔の無いように伝える。


「恥ずかしい話ですが、会長の送迎で中学生の愛子さんを拝見して以来、私の気持ちは変わっておりませんので。」


もう、ヤケクソだ。どうにでもなれ。


「ロリコンと、気持ち悪いと、罵ののしって下さって結構です。その通りのことをしているのですから…」


ずっと、この結婚生活で感じて来た事を全て言ってしまった。


「すみません。最後だからといらぬ事まで喋りすぎました。結仁の件は考えておきますので、失礼します。」



仮面が取れた。もう愛子さんの顔は二度と見れない。

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