会長が倒れた
会長が倒れた。
その知らせはまたたく間に会社中に広がった。
「会長、具合はどうですか?」
仕事の合間を縫い、見舞いに行く。
「あぁ…」
会長はもう長くない。誰が見ても分かるだろう。
「君の次は結仁が継ぐよう遺言は書いてある。」
…。
「承知しました。」
…、
悩んだが、俺はずっと思っていた思いを口にすることにした。
「会長、その…申し訳ありませんでした。」
「…何がだ。」
「私を社長にと、見込んで下さったのに、会長が思う様な結果がだせておりませんので…」
俺を社長にしたことを会長は心底後悔した事だろう。
社長業も良くて中の下。優秀な周りの社員に助けられる始末。娘を幸せにすることもできない。
孫も見せてあげられなかった。
俺は、婿としても、社長としても、劣等生だ。
「誰がお前を見込むか。」
「…は?」
「俺ほどの目を持った人間に何を言っている。」
「申し訳ありません。」
えーっと…では、なぜ?
「貴様には期待など初めからしとらん。今の状態を保ったまま結仁に渡してくれればそれでいい。」
期待、されてなかった。じゃあなんで俺が社長なんだ。
…そして結仁は期待されているわけだ。
あー、しんどい。
「承知致しました。」
俺は、イエスマンだ。どんなことを言われても、耐えて、耐えて言うことを聞く。
会長の言うことを聞くと思って社長にしたんだろうか。
「…あれを…責めないでやってくれ。」
「?と、申しますと?」
「愛子だ。」
「?…はい。」
「愛子の母親も中々子供ができなかった。元々病弱でな。」
…俺達に実子がいないことについてだろうか。
「ようやく産まれたのが、愛子だ。」
「はい。」
「一族経営出来ん事を愛子が謝ってな。」
「え…」
「子供が出来なくても、愛子を責めるな。」
…そのスタートラインにすら、私は立てておりませんが。
…言えるわけがない。
「もちろんです。」
「…そこを俺は見込んだんだ。忘れるな。」
見込んだ?そこを?子供が出来なくてもいいということを?…愛子さんを責めないことを?
分からない。
「はい…。」
俺はイエスマンでしかない。
✽✽✽
もう、会長は長くない。
会長からの打診で始まったこの結婚生活は…どうなるんだろう。
跡取りには結仁がいる。血は繋がっていない。
会長の血を引くのは愛子さん。
俺は…
いよいよ用無しだ。
〝お父様がおっしゃったことですから〟
その〝お父様〟がいなくなったら、愛子さんはどうするんだろう。
会長は愛子さんの絶対だ。
その絶対的な加護がなくなったら…
俺との結婚生活は…
どうなるんだろう