少しの違和感がきっかけの夫婦の会話②
「結仁が関西…」
リビングルームに向かい合って座り、使用人がお茶を出して下がる。
そして、今日の出来事を伝える。
「ええ。なんとなく言葉…イントネーションに違和感があって。お父様がどの繋がりで迎えたかは分からないんですけど、子供にしてはとても礼儀正しいし、大人びた話し方をしていて…もしかしたらどこか良い所のお子様なのかもしれません…」
「…そうですか。」
「私、それを結仁ちゃんに聞いてしまったんです。そしたらそれから一切喋らなくなってしまって…」
「触れてほしくないことだったと?」
「そうだと思います。明日は…何事もなかったように話してくれたら良いのですが…」
「そうですね。」
つい、ペラペラと喋りすぎてしまった。
私に時間を割くことは久司さんに取ってマイナスでしかない。社長になる為には、“社長の椅子を持った娘”と結婚するしかなかったのだから…
私の失態がなければ、時間を割かれずに済んだのに。
彼の為に、せめて足手まといにならない妻になろうと頑張っていたのに。
「申し訳ありません、久司さん。お仕事でお疲れの所、私の話を聞かせてしまいまして…」
「いえ、…夫婦なのですから。」
落ち込んでいると、そう声をかけられた。久司さんは優しい。私が小さな時から、父だけでなく私にも気遣ってくれていた。
夫婦…。そうですね。偽りの…。
この結婚は久司さんにとって義務でしかない。
「結仁の件は私からも、もう一度会長に話を聞いてみますから。」
「いけません!お父様に過ぎた事を伺うなど。お怒りを買ってしまいます!」
「…たまには、頼って下さい。…夫として。」
…。そんな事をしたら際限なく甘えてしまいます。
社長になる為に私のような子供と結婚なさって、久司さんには長年思い続けた女性がいたというのに…
私のせいで本当に思うお方とは結ばれなかったと――。
そのお話は小娘だった私の耳にもちゃんと入っております。
久司さん…私は永遠にこの片思いを胸に秘めておきます。
「結仁ちゃんは触れてほしくないのですから、私達も探ることなどやめましょう。お疲れの所、ありがとうございました。」
頭を下げてその場を後にした…