落ち着いた大人の男性
「結仁が関西…」
リビングルームに向かい合って座り、使用人がお茶を出して下がる。
「ええ。なんとなく言葉…イントネーションに違和感があって。お父様がどの繋がりで迎えたかは分からないんですけど、子供にしてはとても礼儀正しいし、大人びた話し方をしていて…もしかしたらどこか良い所のお子様なのかもしれません…」
愛子さんは結仁と接する中で違和感があったようだ。
「…そうですか。」
「私、それを結仁ちゃんに聞いてしまったんです。そしたらそれから一切喋らなくなってしまって…」
…いいなぁ。愛子さんに話しかけられて。
「触れてほしくないことだったと?」
「そうだと思います。明日は…何事もなかったように話してくれたら良いのですが…」
俺もこの二年半、愛子さんに対してずっとそう思っていたのですが…
「そうですね。」
結仁が羨ましい。
「申し訳ありません、久司さん。お仕事でお疲れの所、私の話を聞かせてしまいまして…」
「いえ、…夫婦なのですから。」
こうして、俺を気遣ってくれる。夫婦なんだからもう少し打ち解けたい。
「結仁の件は私からも、もう一度会長に話を聞いてみますから。」
会長は同じ事を二度も言わない。決まった事を蒸し返してはいけない。
「いけません!お父様に過ぎた事を伺うなど。お怒りを買ってしまいます!」
また〝お父様〟。愛子さんの法律だ。怒りを買うか…
怒られたくない、その一心で愛子さんは会長の意見を素直を聞いて来たんだろうか…
裏を返せば、〝お父様〟から〝怒られたくない〟から…俺と結婚した…とか。
「…たまには、頼って下さい。…夫として。」
それでも、甘えてほしい。頼りにしてほしい。きっと愛子さんが理想とする〝落ち着いた大人の男性〟とはそういう人を指すんだろうし。
「結仁ちゃんは触れてほしくないのですから、私達も探ることなどやめましょう。お疲れの所、ありがとうございました。」
愛子さんは早口でそう言い頭を下げてその場を後にした。
一人、残される。
結局相談された事を解決してあげることも出来ず、愛子さん自ら着地点にたどり着いた。
(情けない…)
落ち着いた大人の男性。愛子さんの理想の男にただ年を取るだけでは中々近づけない。
せっかく、久しぶりに話したのに…嬉しさと不甲斐なさばかりが募る。
次に繋げることが出来なかったと落胆する。せっかくのチャンスだったのに…
(泣きたい…)
いやいや、泣いてはダメだ。落ち着いた大人の男性は泣かないはずだ。