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そしてあれから三年



それから3年が経った。…今、俺達は疎遠だ。


愛子さんは妻として、朝と夜変わらず挨拶に出向いてくれる。


律義な人だ。


大学を卒業したら同じ部屋で一緒に過ごすことができると浮かれていた当時の自分は変わらない今の状況を見てなんと思うんだろう。


会長からも孫はまだかと言われた。急げ、とも。


仕事でも家庭でも俺は会長を失望させている。


そうだよな。愛子さんは一人娘。跡取りがいる。


それなのに、俺は…。



もうどうしたらいいかわからないのが現状だ。お手上げ。この言葉がふさわしい。


もっとこんなにこじれる前に話していれば…と後悔ばかりしているが後の祭りだ。


ようやく、愛子さんが望んでいた〝軽井沢に別荘〟を叶えてあげられるくらいになったのに。


(今更か…)




…落ち着いた大人の男性はこういう時どうするんだろうか。




✽✽✽


「これが【次】だ。お前達の養子としておいておけ。」


ここ一年ほど、滅多に家に寄り付かなくなった会長が朝の出勤前に突然やってきた。


かと思ったら、突然そんな事を言われる。


目の前にはまだ小さな男の子がいて。


俺は状況が掴めず狼狽える。


チラリと隣にいる愛子さんを伺うように見ると、取り乱す事もなく、ただ静かに会長を見つめていた。



〝お父様がおっしゃたのなら〟


これだろう。愛子さんは今の会長の一言で納得したんだ。


俺との結婚がそうであるように。


〝お父様〟が言われた事を従順にこなす。



…それが愛子さんだ。





✽✽✽


話は以上だった。会長に異論も反論も出来ない。


会長と共に会社へと向う車内の中。


運転手がいて、俺と会長が後部座席に座る。偉くなったもんだ、俺は。


裸の王様でしかないのに…



「結仁は優秀だ。跡取りに申し分ない。」


滅多に口を開かない会長が喋りだす。


「…はい。」


俺は会長からまた一つ烙印を押された。

もう俺に孫は望まないということ。


…俺はもはや用無しだ。





✽✽✽


結仁が来てから3日が過ぎた。愛子さんは変わりない。

つまり、受け入れているということだ。


〝お父様がおっしゃった〟これは愛子さんに取って何よりも重大なこの家の法律だ。



また仕事で遅くなった。せめて足手まといにならないようにしないと。


「おかえりなさいませ。久司さん。」


変わらない光景だ。


「ただいま戻りました。」


養子といえども俺達夫婦に子供が出来たということを愛子さんはどう感じているんだろうか?


「久司さん…結仁ちゃんの事でご相談があるんです。いつか…お時間頂けますでしょうか。」


結婚して3年。久しぶりに挨拶以外の言葉をかけられた。


まさか愛子さんから声をかけられるとは思っていなくて、あまりにびっくりして一瞬固まってしまった…だけど、それ以上に、嬉しい。


「今からでも構いませんよ。」


久しぶりに会話が出来る。嬉しい。

愛子さんは俺のアポ取っただけで今すぐではなかったのだろうけど…


久しぶりに巡って来た、会話のチャンスだ。


愛子さんに声をかけられて浮かれて、夜更けだというのに話そうとする…しまった。


落ち着いた大人の男性


ではない。

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