すれ違う心
今日も深夜近くとなってしまった俺を愛子さんが出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ、久司さん。」
あ、あれ?なんか…いつもより声のトーンが…
「ただいま戻りました。」
「…。」
明らかに態度がおかしい。冷たい?というより怒ってる?
…なんかしたっけ?いや、何かするほどここ最近は特に一緒にいれてない。
気のせいか?
愛子さんはそのまま俺に頭を下げて自室に帰ってしまった。
たまたま…かな?
✽✽✽
また今日も深夜になってしまった。会長も失望していることだろう。
そもそも会長はなんで俺を社長に?
ああ、母さんには〝誰とでも調和がとれる〟って言ってたんだっけ。
この社長業において、それ以外に必要なものが山ほどある。
もし、社長が俺を見込んで社長にしたとしたら、今頃後悔しているかもしれない…
…もしも会長が俺の失態に気づいたら、この結婚はどうなるんだろう。
他に優秀な社員は山ほどいる。
愛子さんはまだ若い。
そうなると……離婚?
恐っ!!いやいやいや、それだけは是が非でも避けたい。
まだまだ勉強しないと。頑張らないと。
せめて…愛子さんに笑ってもらいたい。
「ただいま戻りました。」
いつもの挨拶を終える。…やはり、おかしい。
「どうかしましたか?」
冷静に、動じることなく聞く。落ち着いた大人の男性っぽく。
大丈夫、出来ているはずだ。
「…どうかしたのはそちらでは?」
え?あ、
物凄く、冷たい、冷めた目を俺に向ける。なんで?
「と、言いますと?」
冷静に、冷静に。落ち着いた大人の男性。
「…無理して私のような小娘の相手をして下さらなくても結構でございます。」
は?
愛子さんは俺の返事を聞かずそのまま自室に戻ってしまった。
え、えーっと。な、何があった?何が失敗した?
そもそも、失敗するほど一緒にいれてない。
朝家を出ると帰宅は深夜だ。それから風呂に入って寝る。部屋も違う俺達は話す時間もなかった。
何か怒らせるほどの時間すらなかったはずだ。
それが、何故?小娘?無理に相手?
いや、それは俺のセリフで。愛子さんから見たら俺はおじさんで、無理におじさんの相手をしているのは愛子さんの方で…
物凄く落ち込んで来た。仕事も分からない。会社に入り浸り。愛子さんとの時間が取れない。愛子さんと一緒にいられない。そして、俺は大人の男性なんてかっこいいものではない。こんなにも仕事の出来ない俺は、ただのおじさん…
もしかしたら、それを伝えたかったんだろうか?
愛子さんが友達にフォローしたように、俺を傷つけないように、自分を小娘と言って卑下することで、俺みたいなおじさんの相手は出来ない、と。
なんか…もう…泣きたい。あまりにも納得した。




