私達は夫婦です。
お嬢様の好みのタイプと真逆の俺と結婚して、お嬢様はいいんだろうか。いくら〝お父様〟の言ったことでも…
「―――久司さん。」
!!名前を呼ばれて驚く。
「お、お嬢様?」
「私達はもう結婚したのですから、私達は夫婦でございます。私は妻、久司さんは夫。宜しいですね?」
「は、はい。」
「なら、異論はございませんね。結婚した以上私は久司さんの妻ですから。ですから本日よりお名前でお呼び致します。ですので久司さんも私を下の名前でお呼び下さい。」
え、え、え?
「よ、宜しいのですか?」
「私はもう久司さんの妻ですから。」
なんか…矢継ぎ早に喋られて状況が掴めない…
けど、今は
「で、では。―――…あ、愛子さん。」
…言った!
「それでは本日はこれで失礼致します。」
え!?
お嬢…愛子さんはバッと俺に背中を向けて足早に去って行った。
…な、何が起こったんだ。
なんか台風のような…
いや、それより
〝久司さん〟 名前を呼ばれた。
〝私達は夫婦です〟 関係を肯定してもらえた。
〝名前を呼んで下さい〟 以前より近い距離に行けた。
〝私はもう久司さんの妻ですから〟
嬉しい。…う、嬉しいぃ。噛み締めてしまうほど、嬉しい。
結局、婚姻届も結婚指輪もデートもなんかよく分からないけど…それでも、今はこの幸せを噛み締めたい。
お嬢…愛子さんにこの結婚は正解だったと思ってもらえるように。
好かれるように、努力したい。
大丈夫、好みのタイプは聞けた。
〝落ち着いた、大人の男性〟
それが、お嬢…愛子さんの好きな人。
目指したいと思う。そうなろうと思う。
愛子さんの好きな人になりたい。
✽✽✽
あれから半年が過ぎた。
結婚式も終えて、仕事も社長が会長に、俺が社長にと就任した。
俺は社長になってから、目まぐるしく毎日が過ぎ去り、驚くほど忙しく過ごしている。
これは…俺の責任だけど。
大体、人の上に立つということが苦手だった。経営もよく分からない。
一から勉強している最中だ。
つまり、要領が悪いのだ。何をしても人の倍以上に時間がかかる。
部下を使うというのも苦手で、なるべく自分でしようとしてしまう。
社長の秘書をしていた時の倍は仕事に時間が取られている。
社長に失望されたくない。愛子さんに出来る男と思われたい。
誰にも言えず今日も会社に浸かりっぱなしだ。
せっかく愛子さんと結婚出来たのに、会える時間が作れない。今日も夜遅い。
それでも、愛子さんは寝ずに待ってくれている。
俺を出迎えてくれる。
それが、嬉しい。
軽井沢に別荘をプレゼントするのはまだ難しいけど、〝大人の男〟として願いを叶えてあげたい。
…そしたら、俺を好きになってくれるかもしれない。
大丈夫。自分に言い聞かせる。夫婦関係は良好だ。




