好みのタイプ
〝お父様が決めた事ですから〟
つまり、言い換えれば…〝お父様が〟決めた相手であれば
〝誰でも良い〟
ということですか…。
浮かれていた自分が猛烈に恥ずかしい。
今日は婚姻届を出しに行ってデート出来たらいいなと思っていたのに…
あ、そうだ。今日はお嬢様の誕生日。何かデート中に欲しい物をプレゼントしようと思っていたんだった。
始まりは愛が無いにしてもこれから挽回のチャンスはある。だって俺達はもう夫婦なんだから。
「お嬢様…お誕生日おめでとうございます。何か欲しい物がありましたら、プレゼントさせて頂きたいのですが…」
その、デートしませんか?
「ありがとうございます。プレゼントですか。そうですね…今でしたら軽井沢辺りに別荘ですとか…」
え!お嬢様…規模が私の想像を超えておりますが…
「えっと…あ、結婚指輪ですとか。誕生日プレゼントとは違いますが実用性のあるものを先に揃えて参りませんか?」
まだ一般社員の私にいきなり別荘は難しいことでございます…
「結婚指輪でしたら先週お父様と外商の方が来られた時に決めました。」
「え…」
またお父様…そして外商…外商なんか初めて聞いた。本当に外商が来る家があったんだ、こういう家に来るのか…
なんか…デートに誘うのが恥ずかしくなって来た。
きっとお嬢様をがっかりさせるに違いない。
俺が思うようなデートをしたところで、お嬢様はきっと満足しないだろう。そして、大学の友人達にでも知られたらまた変に思われてお嬢様が俺のフォローをしないといけなくなる。
なんか…苦しい。
「…勝手にデザインを決めた事、怒ってらっしゃいますか?」
「いいえ…。」
そんなことではないです。落ち込み過ぎてかなりトーンが落ちた返事をしてしまった。
「やはり大人な方でいらっしゃいますね。動じることなく。」
…え?今のこのテンションが落ちたトーンが動じていないと捉えられたんだろうか…
いやいや、めちゃくちゃ動じているから返事に覇気がなかっただけですが…
「大人ですか?」
確認しておこう。
「ええ。やはり私の周りにはいない、落ち着いた大人の男性だと。」
あ、笑った…。
お嬢様の笑顔には三段階ある。
口角をあげる、微笑む、笑顔。この3つだ。
今のは笑顔。つまり、お嬢様の中でトップだ。
そうか、つまり…
〝落ち着いた大人の男性〟
が、お嬢様の好みのタイプか…
今もこうしてお嬢様の一語一句に右往左往する俺って…
―――俺、お嬢様の好みのタイプの真逆じゃないか?