少しの違和感がきっかけの夫婦の会話①
結仁ちゃんが来て3日が過ぎた。
結仁ちゃんはお父様から言われた経営の勉強で部屋から出てくることはない。
(5歳の子供がこんなに朝から晩まで勉強なんて…)
そんな事を考えていたら、キヨさんが部屋に入って来た。
「お嬢様、そろそろお茶のお時間でございます。今日はシェフがお嬢様の好きなクッキーを焼かれておりますよ。」
「ーーそれよ!」
思いついた!!
「はい?」
「結仁ちゃんも呼んで!一緒にお茶をするのよ!!」
これで少し打ち解けれるかもしれない!
✽
勉強があると断られたそうだけど、キヨさんがなんとか説得してくれたらしい。結仁ちゃんがやって来た。
お庭のテーブルに向かい合って座り、お茶を振る舞う。
「ここの生活には慣れた?」
他愛のない話を振る。
「…。」
無表情で喋らない。
「何か…困ったことや、大変なことはない?」
「…。」
だから、何か喋ってって!
「何かあったら、何でもお母さんに言ってね!?」
もうヤケクソだわ。
「…、はい。」
しゃ、喋ったーー!!
結仁ちゃんは続ける。
「そうですねぇ」
(…ん?…あれ?標準語だけど、なんかちょっと違う…なんだろうこの違和感。)
「私は特に…」
(あ、イントネーション。発音がちょっと、無理してる感じ…この音程、どこか…どこか…)
あ…
「…結仁ちゃんは関西…のお産まれ?」
「――っ!」
ただただ、そう思って何も考えずに問う。
――結果、失敗した。結仁ちゃんは物凄く驚き、下を向いて喋らなくなった。
この子の全身が言っている…「これ以上触れてくれるな」と。
聞かない方が良かった。それから一言も口を聞くことなくまた、自室にこもってしまった。
✽✽✽
「おかえりなさいませ。久司さん。」
仕事から帰って来た夫を出迎える。
私の妻としての仕事は
「いっていらっしゃいませ。久司さん。」
「おかえりなさいませ。久司さん。」
この2つの言葉をかけるだけ。ほかに会話は無い。
「ただいま戻りました。」
そしてこの言葉を聞いて、夫婦としての一日が終わる。そんな毎日。
だけど、今日は違う。結仁ちゃんは戸籍上、私達夫婦の養子だ。子供のことは夫の意見を聞かねばならない。
「久司さん…結仁ちゃんの事でご相談があるんです。いつか…お時間頂けますでしょうか。」
結婚して3年。久しぶりの挨拶以外の言葉だ。
久司さんはとても驚いた顔をして、すぐに穏やかな笑みを浮かべてくれた。
――ドキドキする。
「今からでも構いませんよ。」
その言葉に――
胸が高鳴る…。




