まさかの出来事
久司さん視点で、馴れ初めです!
「お前を社長にしてやる。」
ある日突然、自社の社長に呼ばれて唐突に言われた。
俺は社長付きの秘書で、経営に携わっている訳でも無い。経営の才能があるとも思えないし、人の上に立ちたいと思ったこともない。
ただ、突然言われたその言葉に胸が踊った。
―――なぜなら、社長になるということは…
「おはようございます。」
その日も変わらない朝だった。会長、つまり当時の社長の送迎で社長宅に迎えに行く。
「ああ。」
車に乗り込む社長を見ながら、俺は全神経を屋敷側へと研ぎ澄ます。
まだこの時間は家にいるかもしれない。もしかしたら、会えるかもしれないと、淡い期待を持って…
車に乗り込んだ社長のドアを閉めて、運転席に周る。
ここで俺の期待は空虚に終わる。
もしかしたら、この家のお嬢様に一目会えるかもしれないと期待していたのに。
シートベルトを着けて前を見る。
(今日はハズレか…)
落ち込んだこの気持ちを社長にバレないようにやり過ごさねばならない。
「行ってらっしゃいませ、お父様。ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ございません。」
!!
いた!会えた…
社長の一人娘、お嬢様が見送りに出てきた…
「…意図的に、だろう?」
社長がお嬢様に何やら独り言にも取れる返事を言う。
「?なんのことですか?…送迎ご苦労様。気をつけて下さいね。」
お嬢様は俺にまで気にかけてくれる。
「ご丁寧にありがとうございます。」
弾んだ声にならないよう、充分気を使って返事をする。
(今日はいい日だ。)
単純な自分がみっともないが、会えた…。
それだけで今日一日、いい日になると思える。
――そんな日だった。
そして話は冒頭に遡る。
いきなり社長室に呼ばれ、告げられた。
「お前を社長にしてやる。」
「…は…?」
あまりに唐突過ぎて言葉が出ない。
なぜ俺が?
「二度も言わせるな。」
「も、申し訳ございません。」
えーと、社長に?お前を、ということは俺を指していて。
俺を、社長に、してや…
え?
…えっ!?
「分からんのか。…仕方ない。言い方を変える。お前はうちの娘と結婚するんだ。愛子の夫になる気はあるか?」
――――っは、
「は、はい!」
〝愛子の夫になる気はあるか〟
この言葉だけは考えるよりも先に口が動いた。
ずっとずっと思いを寄せていた、夢見ていた…
夢のまた夢の夢の………
まさか。
愛子さんは久司さんが来るのに併せて見送りに出るという手を使っていたようです(笑)
そしてお父様にはバレているようですね(〃艸〃)