新しい朝
「では、やはり都合よく解釈して宜しいですか?愛子さんも私の事を前から思っていたと…」
「あ。」
しまった。そういうことになる。バレてしまった。
「かわい…愛子さんは美しいですね。」
またかわいいって言いかけた。なんか取ってつけたようだ。
「久司さんは随分と大人な方だと思っておりましたのに。私をからかって遊んで、子供らしいですよ。」
「そんなつもりはありません。ただ、あんまり愛子さんがいつも私を大人と言われるので、そうでなければ、と無理をしておりました。」
「なぜそんな無理を…」
「好きな人に好かれるよう努力したいと思ったからです。」
「!…久司さんはよく恥ずかしくもなくそのような事が言えますね。」
「恥ずかしいに決まってるじゃないですか。ただ、それ以上に伝えたいんです。分かって頂きたいから。」
…そうか。
恥ずかしくないように、かっこよくいたい、プライドを守りたい。これが私がいつも言葉を喋る時に念頭においてきたことだ。
自分を守って、それで自分の首を締めて来たんだ。
「久司さん、私が社長令嬢じゃなくても結婚して下さいましたか?」
「もちろん。寧ろ愛子さんとの結婚の方が重要でした。」
「…では、こちらはお返し致します。」
久司さんに渡された離婚届を渡す。
「もう、二度と私の前で出さないで下さい。」
私達夫婦は今、ようやく夫婦としてのスタートラインに立った。
✽✽✽
「いっていらっしゃいませ、久司さん。」
また変わらない朝がやってきた。
ううん。違う。新しい朝だ。
「行ってまいります。愛子さん。結仁。」
車に乗り込む久司さんを見送る。
結ちゃんにお願いして、朝の挨拶に参加してもらっている。
私も久司さんも前よりも笑顔だ。
「結ちゃん、ありがとう。」
「…何がでございますか?」
「結ちゃんがうちに来てくれたからお父さんとお母さん、
本当の夫婦になれた。」
「…。」
「結ちゃんのお母さんになれて良かった。」
あのとき、結ちゃんという子供がいなかったら、私達は紙切れの縁でしかなかった。
あのまま私は引き止めることも出来ずにいたと思う。
「結ちゃん、私達夫婦を繋いでくれてありがとう。」
結ちゃんは私達の切れかかった縁を結びに来てくれたに違いない。
ひたむきに生きよう。
最後を迎えるその日まで。
プライドを守って身動きが取れなかった頃の私に言いたい。
自分を守ってばかりいるとき、それは誰かを傷つけている。
それは最愛の人かもしれない。
住み着いた習慣は簡単に無くならないけど、せめて、一歩踏み出そう。
言葉では難しい。やっぱり私はまだまだ高圧的な言い方をしてしまう。
だけど、少し、自分を守る鎧を取って…笑おう。
言葉の誤解を解く一番の最善策だ。
―――最愛の人の前で、笑おう。
【完】
終わりました〜。
これからどんどん仲睦まじくお過ごし下さい(笑)
【直くんとももちゃん】シリーズの直くんのお父さんとお母さんのお話でした。
そちらも併せてご覧頂けると嬉しいです(*^^*)
ご覧頂きありがとうございました!