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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コトアヤマリ

作者: エリ美

「彼女」「彼」は1人の人を表しています。

「私、知らなかったの。」

彼女は呟く。冷たい石の牢獄中で独り、誰にも聞かれることのない呟きを零す。彼女を蝕む絶望が堪えきれずに音の無い涙を落とす。


 





「時間だ。」

見張りの兵士が乱暴に牢獄から彼女を出す。兵士は穢れた物を触るかのように彼女の白い両腕を縄で結んだ。彼女は口の端を丁寧に上げ、感謝を述べた。

「今までありがとう。」

兵士はそれを無視し、時折急かすように彼女を蹴りながら断頭台へと向かう扉まで連れて行った。何もない壁に一つ、王であるかのように鎮座している鉄の扉は錆びていた。静かに扉を出て、背筋を伸ばし、一歩一歩しっかりと、毅然として歩く彼女の最期の姿を民衆は嘲笑いながら迎えた。王が、きらびやかに仕立てられた椅子に座っていた。整った顔を醜い嗤笑で見るに耐えなくしている。その隣にはあの、忌々しい、今は王妃と呼ばれる女がちょこんと座っていた。美しく整えた眉根を寄せ、ふっくらとしていてかわいらしいと評判の顔を青くしながら、大きな二重瞼のピンクの目を顰め申し訳なさそうにして。さながら罪人も国民なのだと一人の国民の死刑を悲しむ繊細で善良な王妃のようで。それでも身に纏う服は一流のデザイナーが仕立て上げる、宮殿一つ買えてしまうドレスだった。場違いにも処刑場に宴会用の服を着て髪を高く結い上げている。あの女よりもよっぽど王の方がましだ、と思いながら彼女は歩いていった。断頭台には騎士団長が厳つい顔を顰めてさらに厳つくさせていた。

「なんであの女が王妃なんだ…!殿下は何を考えている?!」

小声で口汚く罵りながら彼は王妃を睨んだ。彼は日頃から王妃を嫌っていた。視線に気づいた王妃は小さく悲鳴を上げて王に縋り付き、王は王妃を無視した。彼女は微笑むことで彼を諌めた。彼女と彼は幼馴染で互いに愛しあう仲だった。ギロチンまでの階段を上がる時に彼は彼女の手を取ろうとした。手と手が触れ合おうとした瞬間、彼女は彼の手を叩くことで拒んだ。

「私に触れないで下さい!」

彼女は叫び、自ら断頭台へと進んだ。拒絶された騎士団長はもう一度彼女に手を伸ばしかけて、やめた。彼女をギロチンへと見送り、彼は一つ息を吐き、そして、遂に断頭台のギロチンの刃を落とした。彼女の躰と頸が鮮血を噴き出しながら離れる。その刹那、民衆の割れんばかりの歓声が響き、王はますます笑みを深くし、王妃は顔を真っ青にした。彼女の血に染まった首を持って王が立ち上がり民衆の歓声が最高潮に達した。王は騎士団長を讃えた。しかしその興奮もすぐに静まり返った。彼は、騎士団長が自らの首を撥ねた。血飛沫が散り、彼の体は彼女の体に覆い被さるようにして倒れた。静寂がその場を支配している―





































 王妃は震えながら、王の手を取ることを拒む。王は王妃に囁く。―お前が望んだんだろう。例の彼女―王の許嫁を処刑場まで導いたのは他でもない王と王妃だ。王は彼女を愛するが故に彼女の消滅を望んだ。最も愛する者に忘れられないように最高の死を―。王妃はその地位と王の寵愛を望んだ。最も愛する者の想い人に最悪の死を―。王は彼女が愛した騎士団長をも愛していた。彼ら2人を愛し、慈しみ、2人を憎み、妬み、2人を殺した。王は王妃を愛してなどいない。躊躇うことなく彼の剣を振るった。白い壁に鮮紅が散る。王は彼女の殺害を唆した王妃を殺し、自ら命の灯火を消した。


 これはとある国が愛されている事を知らなかった男と女と愛し方を間違えた男と女の愛憎劇の末に消滅したお話―。

読みにくい話をここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

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