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弱冠享年ジャンプ  作者: 三崎峻
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邂逅

 毎日ゆらゆらと揺れていた黒点は竜だったらしい。竜へと形を変えたシリウスが塔に接近した頃にはあまりにも大きすぎて、その全体像を掴むのは不可能だった。どうやらこの塔の周りを大きく時計周りに旋回しているらしい。

 となると、あの角笛の音色は俺たちへ向けられた信号ではなく、黒竜を呼ぶ合図だったのか?


 鳴り止まない角笛。

 シリウスの低いうなり声と風を切って移動する音。


「ポチ君! もういろいろ起きすぎてて私の脳の処理能力限界なんですけど! 無理!」

 彼女の思考の助けはもう得られそうにない。パニックを起こしているらしい。

 現にこの密室でできることは何もない。俺たちはただただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。


「第55回脱出作戦会議を始めます」


 彼女はそれまでのパニックとは裏腹に落ち着いた声でそう言った。

「今するんですか? このタイミング?」

 角笛とシリウスの唸り声が混じり合って聞こえるこの空間で?

「あの黒竜、シリウスは私たちに気づいてる! 何度も目が合うのよ! それで何かを訴えかけてきてる気がする!」

「え!? 俺には全然わからないんですけど! ていうか目が合うっていうか、それはこの塔全体を見ていて……!」

「あーもう! うるさい! いいから聞きなさいよ!」

 大声で叫ばないと外の轟音にかき消されて会話ができないのだが。


「ポチ君! 次にシリウスが唸るタイミングで耳を澄ましてみて! 脳内の奥の方に注目するの!」

 俺は言われたとおり精神を集中させてみた。



“二人で手を合わせて天に祈りを捧げろ”


これらが繰り返して聞こえた。脳内に響くしゃがれ声は気高く覇気を纏っていた。


「手を合わせて祈りを……屋上へ……」

「ポチ君! なむなむ!」

 俺は両手を合わせて祈りを捧げる。ここから出られますように……? でいいのか? 

「なむなむ! なむなむ!」

 彼女は可愛らしい祈りを捧げている。俺も同様に何度も手を合わせて祈りを捧げた。


 しかし、何も起きない。


「ポチ君! ちゃんとやってる!?」

「やってますよ!」

「もっと心を込めて! なむなむ!」

「なむなむ!」

 そういう問題なのか? もっと何か別のことがあるのでは?



“二人で手を合わせて天に祈りを捧げろ”



 なむなむとか南無阿弥陀仏とかアーメンとか繰り返す彼女の部屋の壁を叩く。

「聞こえますか!? 今俺が叩いているあたりに手を当ててください!」

「……あ! なるほど! 分かった!」


 壁を両手で押すようにして立つ。壁のちょうど向こう側で彼女が同じように壁に両手を当てているのを感じる。


 頼む……開いてくれ。


 どうやら俺たちの祈りは届いたようだ。


 二人で祈りを捧げることについての俺の予想は確かに当たっていたのだが、そこでまさか2つの部屋を分かつ壁が消えるとは思っていなかった。


 パッと消えた壁の向こう側にいた彼女の両手と俺の両手が重なった。

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