角笛
帆船? 誰が乗っている? 味方なのか? そもそもなぜこの時代に帆船? この塔に近づく目的は? 疑問は山程あるが、とにかくこの何もないと思われた世界に船やそれを操縦する生物がいたことに感謝したい。
「ポチ君! どうする!?」
彼女の声色から焦りや興奮が感じられる。この退屈な世界に見出した活路を開くべき行動を考えているらしい。彼女はしきりに助けを求めて大声を出しているが、おそらく船までは届かないだろう。
「さっきから鳴ってる角笛は多分この塔に向けられた信号のはず。今のところ船との連絡手段はないし、とりあえず成り行きを見守りましょう。俺たちを助けに来てくれているにしても、殺そうとしていても、何か他の目的があろうともこの塔をめがけて進んでいるなら今は待機がいいんじゃないですかね」
「うわぁ! 消極的!」
彼女はわざとらしく驚く。
「ただ待っているだけってのも退屈だし、ここは私が帆船の動向を実況しようと思います!」
…………。
彼女の雲を見守る実況解説を思い出して戦慄した。
「左上の雲はモヤっとしてて小さい。右上の雲は左上のより下にあって……。あ、下っていうのはY座標的な下ね。こっちはペットボトルのキャップと同じくらいの大きさ。モヤってしてる。あ、左上の雲の右上のとんがりが分離しそう……。……あ、右上の左下とくっつく! おーっと! 右上の雲が窓枠から外れる~!」
「船の大きさはおよそ30メートル。マストは3本。帆に髑髏は描いてないから海賊ではないと思う。乗組員がきちんとした格好しているし、服装も統一されてるから多分組織的な集まりだね。大砲もついてるみたいだけど、こっちを狙ってはいないみたい。船員の数は目視できるだけで50人くらいかな。私から見て右、つまり南西側に進路をずらしてるみたい。あーだめ。そろそろ視界から切れちゃう。だいぶこの塔に接近したはずよ」
それはもう、雲の実況をしてた彼女とは別人のようだった。
「……視界から消えた。ポチ君、そっち側の窓からは何か見える?」
「いや何も……。とりあえず待ってみましょう」
それから東西どちらの窓にも帆船は見えないまま30分程が経過した。進路を変えて南へずっと進んでいるとしたらこちらからは視認できなくなってしまう。まだそこらに船はあるのか? それとももう海の彼方へ?
ブオオオオォォオオオ……、と再び一際大きな角笛の音が聞こえた。今度はほぼ真下から聞こえる。
「あーもう! 笛はいいからさっさとここから出してってば!」
彼女は大声で言うが、外には聞こえないのだろう。もう一度窓から外を見るが、やはり帆船は見当たらない。
窓の外はただ海が続くだけ……。
そこで異変に気づいた。
遠くに見えていた黒点、シリウスが次第に大きくなっていく。
目を凝らして見ると、それはこちらに近づいてきているらしいことが分かる。
黒点はこちらに近づくに連れて点から形を変え、それは一匹の巨大な黒竜へと変わった。