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弱冠享年ジャンプ  作者: 三崎峻
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脱出作戦会議

 外は雨が降っていたが『第54回脱出作戦会議』は予定通りに開催された。今日の会議でも何も進展がないことは分かっているが、彼女の退屈しのぎに付き合わないといけない。ちなみに俺は雨天中止を提案したが、却下された。


「今日の議題は何かねポチ君」

「今日は次回の会議の議題について話し合いましょう」

「マトリョーシカ的展開はやめてよ」


 これまでの会議で、窓、ドア、壁、床、天井の破壊は不可能だという結論が出た。外部からの協力者も見込めない(シリウスとレグルスに協力してもらう案も出たが保留されている)。壁や床はともかく、ガラスの窓も何度叩いても傷すら付けられない。

 死ぬ前までの世界とは違い、部屋は魔法(仮)で守られているらしい。


 窓から外を見たところ、この建物は地上から相当の高さにあることも分かっている。はめ殺し窓に顔をへばりつけて下を見ても、地上は見えない。雲よりは低いことは確かだが、それでも相当高い建物だろう。


 見渡す限り海の青一色だ。


 鳥が飛んでいるところを一度も見ていないので、俺たちはとりあえずここが海上に建てられた塔のような建物だと結論を出している。島や大陸が近くにあるなら鳥を見ているだろう。


「シリウスとレグルスについては何か分かったことはないの?」

「黒点については第4回から12回、45回、47回、の会議で話をしたじゃないですか」


 黒点に対してポジティブに思考をするなら、それは遠くに飛ぶ鳥や飛行機の類で、遠くには俺たち以外に人や動物が暮らしているということ。それらに対してこの塔から救難信号を出すことで脱出できるのではないか、という案も出たが、今のところは実現不可能だ。

 そしてもう一つの仮説として、黒点たちは頭のおかしくなった俺が見ている幻影だということ。しかしこれを認めてしまうと、俺が毎日不毛な会議を続けている隣の部屋の女性すら幻影だということになりかねない為、議論は凍結されている。


「このまま死ぬのかな、私たち」と彼女が呟いた。もう何回もこの言葉を聞いている。

「少なくとも腹は減らないし、餓死はしないみたいですけどね。55回の会議では死ぬ方法についてでも考えてみますか? それとも、もう一度死んだらどうなるか? にしますか?」

「こんな状況が続くのならもう死んでるようなもんだけどね」

「俺たちもう死んでますけどね」


 こうして第54回脱出作戦会議は終了した。


 その日の夜、遠くの方で鳴る音で目が覚めた。方角的には東、彼女の部屋の方だ。

「ポチ君! 起きて!」と、彼女が壁を叩きながら叫ぶ。

「なんですか? 何か見えましたか?」とやや食い気味で返事をする。


 するともう一度音が聞こえた。こんどははっきりと聞こえる。低い笛の音だった。ブォォォォオオ……という音。およそ角笛の響きに違いない。

 

「デカイ帆船! こっちに向かってる!」


 どうか帆船が幻影でありませんように。

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