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「なっ…」
ナップは目が点になった。
「なんとぉぉぉぉぉぉ!!!」
あらぬ方向を向き山びこを呼ぶように叫びをあげたナップに、今度はボッシュが動揺する。
「ど、どうしたのナップ?」
「悪い悪い、あまりにも驚いたからさ。……確認なんだけど、もう一回、お前の好きな奴の名前教えてくれる?」
「え?だから、魔女のメイシンさんだよ。僕らがキリー村に派遣された時に同行したあのメイシンさん」
「なんとぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ナップ!?」
「……そっかぁ」
ナップの表情は複雑なものになり、彼としては珍しく黙り込んでしまった。
メイシンとは、フリーの雇われ魔女で、その魔力をもって様々な依頼をこなし、報酬を得ている人物である。
艶やかな黒髪に美しい顔立ちの肉感的な美女で、フィン評議会にもコネクションがあるようだ。
先だってのキリー村への遠征にも同行しており、加えてナップは、闇魔術師レイロックとの戦いにおいても、彼女と共に戦った経験がある。
「いや、ボッシュ。あの魔女はな…」
「え?」
「だから…つまりさ…」
ナップは、知り合いの魔法使いから、魔女メイシンの正体を知らされていた。
彼女は、見た目こそ自分たちと同年代の美女であったが、実際の年齢は、ナップの幼なじみが勤める老人ケア施設の入居者たちと同じか、それ以上なのであった。
彼はこの事実をボッシュに伝えるべきか素早く検討してみたが、魔女の正体を口外すると八つ裂きにされると聞いていた事と、何より目の前のようやく恋心を知った気のいい若者にいきなり手痛いダメージを与えるのはよくないという理由から、「ひとまず話を先に進める」という結論に達した。
「わかった。それでお前は、俺に何を相談したいんだ?」
そう聞きながら、ナップは密かに心の中で、明日の夜にも関係者を集め、この件についての緊急ミーティングを開く事を決めたのだった。




