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「……なかなかうまいじゃないか。まさか、毒なんざ入れてないだろうね?」
アリッサが、紅茶をすすりながら向かいに座るメイシンをジロッとにらむ。
「そんな事するわけないでしょ!!入れたところですぐ気づいちゃうくせに〜」
メイシンが、いっそ一服盛りたかったという調子で反論する。
「確かにうまいな」
ナップもティーカップから中の液体を一口すすると、アリッサと同じ感想を述べた。
結局あの後、ナップが期待した流れ……つまりは、ボッシュの熱い思いについての話をすぐに始めるということには、残念ながらならなかった。
深夜でもあり、メイシンは、ともかくリューン少年を寝かしつけるからと、彼を伴い隣の寝室に行くことになり、彼女は去り際、戻ってくるまでに表のマネキンソルジャーを木箱に片付けておいて欲しい、とナップに力仕事を頼んだのだった。まあ、そもそも彼らが不法侵入者なのだから、これは当然の対処であるといえるだろう。
当の依頼相手が寝室に引っ込んでしまったため、仕方なくナップは自らが斬り倒したマネキン達を運ぶ作業にとりかかることにした。人形たちはなかなかに重く、切り口付近は流れ出た液体でベトベトとしていたため、ナップは並々ならぬ苦労を強いられることとなった。
ナップとメイシンがそれぞれの作業をしている間、アリッサはといえば、暇そうに椅子にふんぞり返り、テーブルの上にあった呪具、魔道具のカタログをパラパラとめくっていたのであった。
ようやく壊れたマネキン達を木箱に放り込み、室内に戻ると、すでにメイシンも席についており、テーブルの上では、何らかの魔力によって空中に浮かんだ陶器製のティーポットから、三つのティーカップへと小さな紅茶の滝が流れ落ちている所だった。また、いつの間に準備されたのか、テーブルの上には何種類ものクッキーが並んだ木皿が置かれていた。
このようにして、奇妙な深夜のお茶会が始まったのである。
「さてと」
花柄のカップを同じ模様の受け皿に置いたアリッサが口を開く。
「本題に入る前に……メイシン、あんたに聞いときたいことがあるんだが」
「本題」を持って来たのはナップのはずだったのだが、すでに、場を仕切る権利はアリッサの元にあるようだ。
「何よぉ」
「あの子は一体誰なんだい?まさか、あんたが産んだ子じゃあないよねえ」
「ちっ、違うわよ!!」
「あんたのことを『伯母さん』って呼んでたところからすると、あんたの正体は知らないみたいだねえ」
「…………」
その点についてはナップもおおいに気になっていたので、ひとまず話の流れを見守ることにした。
「まぁ……別に話してもいいんだけどぉ」
そう言うと、メイシンは視線をアリッサからナップにうつした。
「護民騎士くん」
「何すか?」
「いちいちごまかしながら話すのも面倒くさいから、あなたに魔女メイシン最大の秘密を教えてあげるわ。ま、ここまでたどり着いたご褒美ってとこね」
メイシンは、わざとらしく人差し指を揺らしウインクをしてみせた。思わず「古っ!」という言葉が口からこぼれそうになったナップであったが、ギリギリで止めることに成功した。
「まあ、多少のショックは覚悟してね☆ああ、それから―」
メイシンの顔から笑いが消え、つくりものめいた声ではなく、凄みのある低い声が発せられる。
「この秘密を他人に話したら、生きたまま八つ裂きにするか、カマドウマに変えてそこのお鍋で煮ちゃうからね」
虫にされるのはイヤなので、ナップは魔女に対し真剣な表情で「わかりました」と返答をした。
しかし彼にとって最も困惑すべきことは、ここまでのフリからして、彼女が打ち明ける秘密がすでに予想できてしまったことであった。




