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「そうだね。メイシンのとこに行く以上、帰りがいつになるかわからないから、あんたは戻ってあたしの外泊届を夜勤の奴に出しといとくれ」
ナップの提案に便乗するかのように、アリッサがたたみかける。しかし、彼女の要求は、細かい性格のブランを再び刺激してしまったようだ。
「だめですよ!!外泊届は本来、あらかじめ前日に本人が記入して、職員に提出するものなんですから。そんな後づけみたいな事はできません」
「いいじゃないかそれくらい」
「だめったらだめです!!」
「ああ、うるさい。お前だってこの間、干したシーツを取り込み忘れて、帰り際に実習生に頼んでたじゃないか」
「いや…あ、あの時は急ぎの用事があって…」
「ほぉう、どんな用事があったんだ、言ってごらん?」
「だからその…ちょっと…肉の特売日だったから…」
「特売日!?おお、いやだ。いい若者が特売日を気にするなんて!!お前は主婦か?」
「仕方ないんですよ!!アリッサさんみたいにたくさんお金持ってないんだから。それに―」
「ストーーーップ!!」
苦笑を浮かべながら、再びナップが二人の間に入る。
「なあ、ブランさぁ」
ナップはブランの肩に手を回し、いかにも親しげに話しかける。
「え?」
「お前、明日の勤務はなに番?」
「え……早番だけど」
「だったら、今日はもう帰った方がいいって。明日の仕事に差し支えたら大変だろ」
「それは……」
さすがに幼なじみだけあって、ナップは生真面目なブランの性格をよく把握し、つつくべきポイントを心得ていた。
「外泊届の件は、俺に免じて今日だけは融通きかせてくれよ。なっ!!」
「う〜ん…」
正面切ってナップに懇願されたため、ブランは困った顔になる。ブランに限らず、ナップに頼み事をされた人間は、ついつい引き受けてしまうことが多かった。
そういう意味でこの若者には、何かしら人を惹きつける魅力があるのは確かなようだ。
「頼むよブラン、この通り!!」
「……わかったよ」
ついにブランは、仕方なさそうに首を縦にふったのであった。




