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俺は勇者

作者: 剣玉

 

 俺の名前はシゲ。職業は勇者。

 世界を脅かす魔王を倒す勇者だ。


「シゲ様。そろそろお時間でございます」

「ああ、行こうか」


 俺は初老の執事に返事をしてから立ち上がった。


 勇者として生まれた俺は、生まれた時から魔王を倒す使命を背負っていた。15歳になり成人を迎えた俺は今から王の間へ行き、聖剣を授かる事になっている。

 おかしな話だが、これまでの事はあまり覚えてない。恐らく魔王討伐のために鍛錬をしていたはずだ。多分。きっと。


 王の間にはたくさんの人が並んでいた。俺はその中央を歩き、王の前で膝をつき敬意を表す。正直、玉座に座ってるだけのこのジジイに尊敬も何も無いのだが、こうしなければ面倒くさそうなので素直に頭を下げる。


「勇者シゲよ!よくぞ参った!」


 王が喋り出す。うるさい。


「貴殿は唯一魔王に対抗できる人類の希望だ!どうか、世界を救ってくれんか?」


 白々しい。俺がここに来た時点で分かったんだから一々確認すんなよ。まぁ答えるけどさ。


「もちろん、この命に代えましても」


 我ながら恥ずかしいセリフだ。


「感謝するぞ、勇者よ。魔王を倒す決意をしたそなたにこの聖剣を授けよう」


 王はそう言うと、光り輝く剣を取り出し俺に差し出した。これが聖剣か••••凄いな。俺はその聖剣を受け取り天に翳す。そして事前に決めておいたセリフを放つ。


「私がこの聖剣で必ずや魔王を討ち取って見せましょう!」


 ふっ。決まった。王の間にいた人々は歓声をあげる。


 こうして俺は魔王討伐に向けて動き出した。




 まずは仲間集めだ。とりあえず募集をかけたが、俺の仲間になりたい奴は多い。なんせ勇者だからな。


 俺はその中から3人の女を選んだ。もちろん、魔法使いとして優れていたからだ。


 ••••ごめん、嘘ついた。3人とも可愛くて巨乳だからです。だって仕方ないだろ?どうせなら可愛い子がいいじゃないか。それに何より巨乳は大事だ!そうだろ!?巨乳は漢のロマンだ!!


 っと熱くなりすぎた。とにかく、仲間も手に入れた俺は町で必要な物を買い揃え旅に備えた。





 ➖その日の晩、奇妙な夢を見た。俺はベッドに寝ており、目の前には見知らぬ天井が広がっている。たまに見る夢と分かる夢だ。あの意識がハッキリしている夢。


 旅の前日にこんな夢を見るとは、もしかして女神でも出てきて未来を教えてくれたりするのだろうか。そんな事を考えつつ体を起こそうとするが動かない。いや、動くのだが妙に鈍い。夢の中で金縛りか?どうしたもんかな。


 そうして俺がベッドの上で寝転がったままゴソゴソしていると、足音が聞こえた。


「あら、あなた起きたんですね。お腹は減ってませんか?」


 顔だけ上げて見ると、そこにいたのは皺くちゃなババアだった。


 なんだこいつ?こいつが女神だなんて認めたくない。つーか起きたどころか寝てる途中だっつの。まぁそんな事夢の中で言っても仕方ないよな。それに何故かお腹は減ってるし素直に答えとくか。


「あ••••ぅ••••」


 あれ?声が出ねぇ。俺はどーゆー設定の夢を見てるんだ?するとババアは俺が寝てるベッドの横まで来て、


「まだ眠たいんならもっと寝てもいいんですよ?」


 と言いつつ俺の手を握った。待て、腹減ってんだって!

 俺は何とか声を出そうとしたがそこで突然ブツリと意識が途切れた。➖





「あ〜変な夢だったな〜」


 朝、目が覚めると俺はいつものベッドの中からいつもの天井を見ていた。変な夢を見た。その事は覚えているのだが、逆に言うとそれしか覚えていない。内容を忘れているのだ。


「まぁいっか」


 夢の事を頭から追い出し俺はベッドを出た。今日から旅が始まる。可愛い女の子達とキャッキャウフフな旅が••••もとい、魔王を倒すための旅が。俺は鎧を着て聖剣を腰に差すと家を出た。


「「「あ、シゲ様おはようございます」」」


 家を出ると女の子達が待っていた。何とも素晴らしい光景だ。


「ああ、おはよう。今日から旅に出るが準備はいいか?」

「はい!いつでも大丈夫です!」

「そうか。じゃあ行こう」


 こうして旅が始まった。


  旅は始まったのだが、何と言うか、聖剣が強すぎる。そこら辺にいる魔物なんて紙みたいに切れる。立ち塞がる魔物をバッタバッタと切り倒す。そしてそんな俺の姿に女の子達は見惚れている。


「大丈夫。君達のことは俺が守るから!」


 試しにキメ顔を作って言ってみた。すると女の子達は顔を赤く染めて目を潤ませる。もう俺にメロメロだ。

 ほんと勇者で良かった。完全に勝ち組だわ。人生超イージーモード。


 その日の内に次の町に着き、そこで宿を取った。4人部屋を1つだ。


 そして寝た。もちろん、女の子達とたっぷりイイコトをしてからな。





 ➖その日の晩、奇妙な夢を見た。俺はベッドに寝ており、目の前には見知らぬ天井が広がっている。たまに見る夢と分かる夢だ。あの意識がハッキリしている夢。


 旅の途中にこんな夢を見るとは、もしかして女神でも出てきて未来を教えてくれたりするのだろうか。そんな事を考えつつ体を起こそうとするが動かない。いや、動くのだが妙に鈍い。夢の中で金縛りか?どうしたもんかな。


 そうして俺がベッドの上で寝転がったままゴソゴソしていると、足音が聞こえた。


「あ、シゲさん起きたんですね」


 そこにいたのは若い女だった。白いワンピースのような服を着ている。


「久しぶりに起きましたね。私のこと分かりますか?」


 女は尋ねてきた。分かりますかって会ったことねーだろ。だが••••なかなか可愛い。ナンパでもしてやろうかな。


「今から点滴変えますね〜」


 だが女は俺の返事を待たず俺の横へ来た。そして俺の右腕に刺さっていた針を抜く。あれ?俺こんなの刺さってたの?


 1人で驚いていると女は新しい針を出して俺の腕に近付ける。針からは何やら管のようなものが伸び、液体の入ったパックに繋がっている。何をするつもりかは予想できる。きっと俺に針を刺し毒を注ぐつもりだ。俺は抵抗しようとした。だが体に力が入らない。ならば叫ぶだけだ。


(おい!やめろ!急に何の真似だ!)


 だが何故か声も出ない。


「は〜い、今から刺しますから、じっとしてて下さいね〜」


 やっぱり刺すつもりか!この女まさか魔王の手先か?そんな事を考えている間に針は呆気なく俺の腕に刺さった。


 ••••あれ?痛くない?ああちょっと待て、これ、夢なの忘れてた。


 これが夢だということを思い出すと俺は安心し、その瞬間に突然ブツリと意識が途切れた。➖





「また変な夢見たな••••」


 昨日に続き内容は覚えていない。夢を見たことだけは覚えている。思い出せない感じがなんとも気持ち悪いが、こんな事は忘れるに限る。


「よっと」


 ベッドから起き上がり周りを見ると、隣のベッドで女の子達が寝ていた。ああ、そういえば同じ部屋で寝たんだっけか。昨日の夜は凄かったなぁ。


 ニヤニヤしながら待っていると女の子達も起き出した。今日も旅の続きだ。




 それからの旅も特に変わった事は無かった。魔物が出れば俺が切り倒し、夜になれば女の子達とイチャイチャ。そして変な夢も見続けた。


 旅に出てから毎晩夢を見ている。相変わらず内容は覚えていない。旅に出る前はどうだったか思い出そうとするが、昔の事も思い出せない。まぁ別に支障をきたす訳では無いからあまり気にしてないけどな。




 旅に出て数ヶ月、遂に魔王城に着いた。パーティーメンバーは増えていない。俺が強すぎてその必要が無かったのだ。だが、相手が魔王となれば流石に緊張するな。


 明日、魔王を倒す。俺は改めて覚悟を決めて眠りについた。





 ➖その日の晩、奇妙な夢を見た。俺はベッドに寝ており、目の前には見知らぬ天井が広がっている。たまに見る夢と分かる夢だ。あの意識がハッキリしている夢。


 魔王戦の前にこんな夢を見るとは、もしかして女神でも出てきて未来を教えてくれたりするのだろうか。そんな事を考えつつ体を起こそうとするが動かない。と言うより体に感覚が無い。どうしたもんかな。


 そうして俺がベッドの上でじっとしていると、周りに人が集まっている事に気付いた。


 皺くちゃなババアや中年らしき男とその妻らしき女。そしてその夫婦の子供らしき少年と少女。とりあえず俺が分かったのはそんな感じだ。まだ人はいるのだが目が霞んでよく見えない。


 ババアが俺の手を握り喋りかけてくる。周りの人だかりが口々に喋っている。何故か皆泣きそうな顔をしている。だが俺の耳は悪いのか、何を言っているのか分からなかった。


 突然、眠たくなってきた。夢の中で眠たいというのもおかしな話だが、きっと目を覚ますのだろう。まーた変な夢だったな。目を覚ましたら忘れてんのか。


 ••••忘れたくないな。何故かそう思った。所詮この光景はただの夢なのに。今までの夢は覚えていない。しかしこんな事を思ったのは初めてだろう。そう思った。根拠は無いがな。


 だが忘れそうな気がする。いや、きっと忘れる。そしてこの奇妙な夢は2度と見ないだろう。俺にはそんな確信があった。


 眠気が強くなってきた。


 せめて、この瞬間だけでも目に焼き付けよう。そう思い俺は周りを見渡す。だが、やはり目は霞んでよく見えない。それでも、俺は残り僅かな力を込めて見渡した。


 よく見ればそこにあったのは、初めて見るはずの、だがしかし、どこかで見たことのあるような顔ばかりだった。


 急に、霞んでいた視界がさらにぼやけた。少し遅れて俺が涙を流している事に気付いた。何故かは分からないがそれで良い気がした。


 体から力が抜ける。俺の意思に反して瞼が落ちてくる。最後に人だかりがざわめいたのが見えた。




 ••••もう何も見えない。これで、あの光景ともお別れか。


 あれ?そういえば目が覚めたらやらなきゃいけない事があったな。なんだっけ。忘れちまった。




 暗闇の中、少しずつ俺の意識が遠のいていく。


 ゆっくり、ゆっくりと。




 最後に俺はあの光景を思い出した。



 ああ、良い人生だったな。



 それが何を意味するのか分からない。だが、俺は確かにそう思った。





 そして俺はーーー











ヒント・胡蝶之夢

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