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クリスマスイブの夜。ぼくは夜行バスに乗って、都会の街を目指す。彼女のライブは明日だ。バスに乗っていても伝わる寒さを凌ぐため、ぼくは掛け布団を広げ、なるべく寒さを防いだ。
耳をすっぽり覆い隠す大きさのヘッドホンからは、彼女の歌がかすかに流れてくる。周囲の迷惑にならないように音を潜めたそれは、まるで子守歌のようだった。彼女の声を聞きながら、ぼくは静かに眠りにつく。
朝になると、夜行バスはライブが開催される街に入っていた。目を覚まして早々、ぼくは修学旅行で訪れて以来の大都会の光景に目を奪われる。行き交う人々は、クリスマス独特の賑やかさを残したまま、忙しくどこかへ歩き去っていく。
人口数百万人のこの街のどこかに、彼女もいる。今夜のライブを前に、彼女は何を思っているんだろう。そんなことをぼんやりと思っていると、バスがゆっくりと静止する。ぼくは、荷物を片手に街中を歩き出す。
まずは手近にある喫茶店に入り、少し遅めの朝食を摂る。軽く腹を満たしてから、再び街へと歩き出す。合間合間に観光や買い物を楽しみながら、ぼくは事前に予約していたビジネスホテルへと向かった。
ビジネスホテルにチェックインしたのは、午後三時半を回ったぐらいだった。そこで、着替えなどの大きな荷物を部屋に置く。一度フロントで鍵を預かってもらってから、ぼくは夕陽が沈もうとする街に繰り出す。ライブまであと三時間半。時間的な余裕も確認しつつ、ライブ会場へと足を進めた。
ビジネスホテルから多少離れたそこに着いたのは、午後五時半だった。外はすっかり暗闇に覆われ、雪も降り始めた。肌寒さを体感しながらも、ぼくはレコード会社からの当選通知を片手にライブ会場へと入る。
そこは街の一角に建てられたチャペルで、白い外壁がとても印象的だった。両開きの扉から入って正面にあるヴァージンロード、その奥にあるステージの周りには、色とりどりのキャンドルが等間隔に並べられていた。
ぼくは、ヴァージンロードの両脇に据えられた指定席に腰掛け、彼女が来るのを待つ。ライブ開始までの約一時間、ぼくの心臓はこれまでにないほどに高鳴る。
ついに会えるんだ、彼女に。彼女の歌声に、触れられるんだ。
そして。
ライブの開始時間になると同時に、ゆっくり開かれたチャペルの扉から、彼女の姿が現れる。
ぼくは、ライブに来ていた彼女のファンたちとともに、心からの拍手を送った。