表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3

 彼女と出会ってから、ぼくの生活は変わった。


 朝夕の通学時間のあいだ、ぼくは揺られる電車の中で、彼女の曲を幾度も聴いていた。とは言っても、最初の数ヶ月ほどは自分用の携帯プレイヤーを持っていなかったから、頭の中で覚えているメロディーを繰り返していただけだ。


 夜になったら、静かな夜闇の中で彼女の曲を聴く。シングルやアルバムに収録された曲の一つ一つは、短くも美しい響きを湛えている。まるで夏の蛍のようなそれを、抱きしめるように、時に噛みしめるように耳にする。そうすることで、ぼくの心は不思議と凪いでいった。苦しいことも悲しいことも、彼女の曲の前では何だかちっぽけなものに思えたのだ。


 やがて彼女のみに留まらず、ぼくは邦楽や洋楽、さまざまなアーティストの楽曲をたくさん聴くようになった。多種多様に紡がれるそれらは、全てが美しい輝きを放っていた。数分程度の曲を一つ生み出すのに、彼らがどんな苦労をするのか。特別秀でた才能もないぼくには、きっと想像もつかないような世界だろう。


 そして、そこには彼女も例外なく存在する。


 そんな中で燦然と輝く彼女の姿は、ぼくにとっては太陽のようだった。眩しくも、その光は誰かを強く惹きつける。ぼくもその一人だ。この気持ちを恋というのか、憧れというのか、ぼくにははっきりと分からない。分からないまま、時間だけが過ぎていく。



 彼女の音楽と出会ってから、気が付けば五年の歳月が経った。ぼくも学校生活を卒業し、社会の一員となった。五年を経て、変わったものも沢山あったが、彼女の後ろ姿を追いかけたいという気持ちだけは変わらない。


 そんなぼくに転機が訪れたのは、夏も終わりに近づいたある日のこと。ぼくが以前応募していた、彼女のクリスマスライブのチケットが当選した、とレコード会社からの案内が届いていたのだ。


 それを目にした時、ぼくは驚きを隠せず、何度もその通知に目を通した。今まで何度か応募はしていたけれど、彼女の人気の高さゆえに全然当たらず、半ば諦めかけていたのだ。



 彼女と初めて会うことが出来る。



 そう思うだけで、ぼくの心は自然と高鳴った。その日は、五年前に彼女の声を初めて聴いた日だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ